39、庭には行くな




「はあはあ……マリヤ、一度一緒に会場に行ってみない? テッドの様子をこっそり見て確かめてみましょう」


 興奮が抑えきれずに少々息が荒くなってしまったが、私はマリヤにそう提案した。


「ティアナも心配していたわ。マリヤを探していたから、安心させてあげないと」

「……そ、そうですよね。申し訳ございません」


 私が差し出した手に手を重ね、マリヤはふらつきながらも立ち上がった。

 二人で会場に戻って見渡したが、テッドの姿が見えない。代わりに、ティアナをみつけて歩み寄って尋ねた。


「テッドがどこか知らない?」

「マリヤを探していたけど、会場にいないから庭を見に行ったけど」

「庭!?」


 本日の逆パワースポットじゃん!


 私は慌てて開いた窓から庭に出た。すると、植込みの横でテッドがニチカと話しているのが見えた。


 逃げろ、テッド! そのヒロインは偽物だ! お前のヒロインはこっちだ!


 おのれ、ニチカ! 手を出すのは攻略対象だけにしとけ! テッドに手を出すのは許さん!


「テッド……?」


 しまった! マリヤに見られた!


「マリヤ? 良かった、探してたん……マリヤ?」


 こちらに気付いたテッドが声を上げるが、マリヤはぱっと身を翻してその場から逃げ出した。


「マリヤ?」

「ああもう! 追いかけて!」

「は、はいっ」


 テッドは目を白黒させながらもマリヤを追いかけた。


「マリヤ! どうしたんだ?」


 会場の真ん中で、テッドがマリヤの手を捕まえる。


「は、離して……」

「どうしてだ? 部屋を訪ねてもいなかったら、もしかしたら誰かに誘われてしまったのかと……でも、会場にも姿が見えないから、心配で……」


 テッドに手を掴まれたまま、マリヤは振り向かずに俯いている。


「マリヤ、俺が何かしてしまったのか? なんで怒っているんだ?」

「怒ってなんかっ……、私っ……」


 マリヤは肩を震わせる。それを見て、テッドは狼狽えた。


「どうして泣くんだ?」

「ごめんなさいっ……私、幼なじみだからって、テッドがいつまでも一緒にいてくれるような気になっていたの。でも、学園でこういう行事がある度に、テッドが誰かを誘うかもしれないって気付いて……」


 マリヤの声が小さくなって消えていく。

 会場中の生徒達も静まり返って二人をみつめている。


「マリヤ……」


 意を決したように呟いて、テッドはマリヤの手を握ってその場に跪いた。



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