34、婚約者ジェンスロッド・サイタマー
パーティーの途中、会場から抜け出したヒロインは、庭の隅で一人寂しそうに佇む攻略対象を見つける。
二言三言会話をし、彼の孤独を見抜いたヒロインは、庭に咲く名もなき花を摘んで彼に差し出す。
誰にも見向きもされない花でも、一生懸命に咲いているわ。私は貴方がこの花のようにいつも一生懸命なのを知っているから。的ななんかいい感じに乙女な台詞を吐いて、その言葉に胸を打たれた攻略対象は花を受け取って胸に飾るのよ。
んで、「会ったばかりなのに、こんなに俺のことを理解してくれているだなんて」的な妄言と共に攻略対象は自分も花を摘んでヒロインの髪に飾るの。
無理。
ゲームだから見れたけど、現実にそんな光景見せられたら寒気がおさまらなくて凍死しちゃう。
ちなみにこの攻略対象がアルベルトだった場合は、レイシールから贈られた花をむしり取って地面に叩き捨てるというワンアクションが挟まるからね。クズ、ここに極まれり。
ふう。思い出しただけで寒気がしちゃうイベントだけど、今の私はアルベルトの婚約者じゃない。
「レイシー。何色の花がほしい? かわいいレイシーに手を出す不届き者がいたら大変だ。俺とレイシーの愛の強さを見せつけてやらないとな」
中庭のベンチに座って、私の髪をうっとり撫でているジェンスロッド。
「やっぱり紫の花かな。レイシーの瞳の色だ」
「んー、そうだなあ」
紫はゲームでレイシールがアルベルトに贈った色だからなあ。同じ色の花をジェンスに贈るのは嫌だな。
「赤がいいな。私が赤い花を贈ったら胸に付けてくれる?」
「当たり前だろう! レイシーから貰った花をつけないだなんて、死んでもあり得ない!」
ジェンスにぎゅーっと抱きしめられる。立夏祭を前に、いちゃつくカップルやこの機に告白する生徒が溢れているため、学園の雰囲気は全体的にほわっほわだ。浮ついている。
「レイシーのはちみつ色の髪に赤は映えるな。きれいな花を贈るからな」
ジェンスが私の髪を一房すくって口づける。
ゲームのレイシールは婚約者のアルベルトに愛されていなかった。
この浮ついた雰囲気の学園の中で一人で過ごし、パーティーでも放っておかれて。
レイシールこそ孤独だったんじゃないの?
ゲームではお兄様もお亡くなりになっているし、レイシールは一人ぼっちだった。
お兄様とジェンスが生きているだけで、世界はこんなにもレイシールに優しくなるのに。
私はふう、と息を吐いて、ジェンスの体に寄りかかった。
嫌がることなく受け止めてくれる相手がいると、心に余裕が生まれるなあ。
やっぱりジェンスは重要人物だ。と、私は改めて思った。
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