32、沖縄と和解






「すっごい盛り上がりでしたね!」


 マリヤが興奮した様子で言う。


 朗読会が終わり、生徒達が帰って、私達は講堂のお片づけ中だ。


「皆さんの協力のおかげですわ」

「なにが協力だ!ひとのこと脅しやがって!」


 制服に着替えたジェイソンが私に向かって吠える。


「こんな恥をかかせやがって!おぼえてろーっ!!」


 下っ端っぽく去っていった。


「俺、村人役で良かった……」

「なんで俺が女神だったんだ……」

「あーあ。疲れた……」

「絶対、いつか復讐してやるからな……」


 不良達がとぼとぼと帰っていく。


 なんだかんだと楽しんでいたくせに、素直じゃないなぁ。


「いやあ、こんなに楽しい朗読会は初めてだったよ。本当にありがとう」

「こちらこそ」


 フレデリカ様と笑顔で握手する。

 今日で何人の女の子がフレデリカ様のファンになったんだろうなぁ。


「皆もありがとう。私の思いつきで苦労させてしまってごめんなさいね」


 私は後かたづけをしているメンバーに声をかけた。監督生ではないのに、マリヤとデイビットとテッドも手伝ってくれている。


「いやあ、実に楽しかったですよ。あいつらもなんだかんだで結構やる気になっていたじゃありませんか」


 デイビッドがけらけらと笑う。


「まったくだ。こんなに楽しい朗読会は初めてだったよ」


 不意に、涼やかな声が響いて、私は慌てて振り向いた。この声は……


「と、トキオート様!」


 アルベルトが二、三年の監督生を従えて立っていた。


「三人とも、とても良い朗読会にしてくれたこと、礼を言う」

「ははぁ……」


 アルベルトは監督生代表として労いに来たらしい。

 彼の後ろで、ガウェインはふてくされたような顔でそっぽを向いている。その隣のナディアスが一歩進み出て私の前に立った。


「レイシール嬢。今日の朗読会はとても素晴らしかったです。恥ずかしながら、以前あなたに言われたことを今日ようやく理解することができました」


 そう言って、ナディアスは目を細めて微笑んだ。


「ただ詩を読ませるだけではなく、皆が楽しめるように心を砕いたあなたの努力に感服しました。どうぞ、以前の無礼をお許しください」

「はぁ……いえ、そんな。とんでもございません。私こそ、無礼なことを申しました。お許しください」


 どうやら、ナディアスは今日の朗読会を見て何か思うところがあったらしい。ガウェインはふくれっ面だが、ナディアスは謝罪してくれたので、私も素直に謝った。


「本当に、素晴らしい会でした」

「ナディアスの言う通り、とても素晴らしかったよ。朗読会で生徒達が皆あんなに楽しめるなんて思わなかった」


 ナディアスの言葉をアルベルトが引き取る。

 

「皆、本当によくやってくれた。君達が監督生になってくれて本当に嬉しいよ」


 アルベルトはそう言うと、監督生を引き連れて講堂から出て行った。お兄様が手を振ってくれたので振り返した。ジェンスは手を振ろうとしてお兄様にアイアンクローをかまされていた。


 私はほっと息を吐いた。


 朗読会は無事に成功した。ニチカの介入もなかった。フレデリカ様はかっこよかった。


 おおむね満足のいく出来映えに、私は皆と笑いあいながら後片づけに精を出したのだった。



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