30、私は食堂のおばちゃんだ。






 私の名前はジェシカ。食堂のおばちゃんだ。


 このヒノモント公立学園の食堂で二十年働いている。

 最近、新入生が入ったので食堂も大わらわだ。食堂に慣れていない貴族の子達は注文一つにも手間取ってしまうのだ。


 その新入生の中に、ちょっと目立つ子がいる。


「おばちゃん、今日のおすすめは何?」


 にこにこと話しかけてくるのは金髪の可愛い女の子だ。

 最初からにこやかに話しかけてきたので、てっきり特待生の平民か、男爵か子爵の家の子かと思いきや、なんと四大公爵家のご令嬢だという。


「やあ、レイシールちゃん。今日はいいエビが入ったから、天丼がおすすめだよ」

「じゃあ、それで」


 北の公爵家のご令嬢であるレイシール・ホーカイド様は、食堂のメニューの中でも米を使った料理をよく食べる。

 北の貴族、とくに高位貴族は米を「家畜の餌」と呼んで嫌がるのだが、レイシールちゃんは平気な顔で定食を注文する。


「今日もレイシーは可愛いな。俺の膝に乗ってくれ」

「食べづらいから嫌」

「おい、レイシールから離れろ」


 レイシーちゃんにはたいてい二人の男がくっついている。

 一人は婚約者のサイタマー様。もう一人はホーカイド次期公爵様、レイシールちゃんの兄上だ。

 二人ともレイシールちゃんを溺愛しているようだ。


 レイシールちゃんは可愛いので無理もない。食べ終えたらトレイを下げて「ごちそうさま」と言ってくれるので食堂の職員には大人気だ。


 しかし、ちょっと気になることもある。いつもレイシールちゃんを睨んでいる女生徒がいるのだ。

 もしかしたら、サイタマー様かホーカイド次期公爵様のことが好きな女子かもしれない。

 サイタマー様はレイシールちゃんの婚約者だから横恋慕はまずいし、ホーカイド次期公爵様のことが好きなら、妹のレイシールちゃんとは仲良くしておいた方がいいのにな。


 まあ、レイシールちゃんはいつも元気だから心配ないかな。


 私達はおいしいごはんを作ってあげるのが仕事だ。

 明日もレイシールちゃんにおいしいご飯を作ってあげよう。



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