26、花は要らんが華は要る
朗読会には一応、予算が出るという。
しかしながら、講堂で詩を読むだけなら当然お金はかからない。
じゃあ、毎年予算を何に使っていたかというと、花だ。
例年、大量の花を買って講堂を飾り付けていたらしい。
確かに、ゲームでも背景がめっちゃ花だった。これでもかと華々しかった。ニチカが詩を読むときの背景なんか「どうだ可憐だろう」と言わんばかりの爛漫ぶりだった。無っ駄。
花を飾るのは悪くないけれど、二時間程度で終わる会の為に講堂を花で埋め尽くす必要はないだろう。終わったら捨てられちゃうんだし、もったいない。ていうか、花粉症の生徒とかいないの?
詩を読む人だって、むせかえる花の香りが充満していたら辛くない?ニチカの背景を花で賑わせるためだけに皆が我慢しなくちゃいけないの?
はい、馬鹿馬鹿しい。
というわけで、例年、花につぎ込まれていた予算は、紙と布を買うのに使わせてもらった。
あとは人手だー。人手が足りない。
特にいい加減に朗読者を決めないといけない。
そんな訳で、私は三年のAクラスの教室を訪ね、ジェンスを横に受け流してからフレデリカを呼んだ。
「お願いします!フレデリカ様に詩を読んでいただきたいのです」
「私に?」
唐突なお願いに、フレデリカは面食らった。
「何故、私に?」
「やはり、催しには「華」が必要だと思いまして!」
私が言うと、フレデリカは皮肉げに笑った。
「私が「華」?これはまた、愉快なことを言ってくれる。何を企んでいるのかな?」
ふぁさっと髪をかき上げる仕草に、私は確信する。
「フレデリカ様の持つたぐいまれな魅力を輝かせる時がきたのです!どうか、私を信じてお力をお貸しください!」
「ふん、何をするか知らないが、いいだろう。お手並み拝見といこう」
きゃー、フレデリカ様、かっこいい。
「それで、もしよろしければ、朗読する詩は私に選ばせていただきたいのですが」
「ああ。任せよう」
フレデリカ様が快く請け負ってくれたので、私はお礼を言った。
「しかし、苦労しているんじゃないか?オッサカーが西の貴族に「朗読者にならないように」命じているらしいぞ」
おやまあ。大阪ってばそんな裏工作をしていたか。私に馬鹿にされてよっぽど腹が立ったんだなぁ。
さて、フレデリカ様へのお願いが成功したので、振り向いてこちらを窺っていたジェンスに向き合う。
「ジェンス~」
両手を広げて歩み寄ると、ジェンスはぱああっと顔を輝かせた。
「レイシール!可愛いレイシー!愛してる!」
ジェンスが私に抱きつこうと駆け寄ってくる。それを寸前でさらっとかわすと、ジェンスが勢いよく床に突っ込んだ。
「ジェンス?床に倒れて何をして……レイシール嬢?」
教室に入ってきたアルベルトがジェンスと私を見て眉をひそめた。
「じゃあね、ジェンス」
「くっ!小悪魔め!俺の心をかき乱して放置とは!」
Aクラスを訪ねるたびにジェンスをかわさないといけないのか。面倒くさいなぁ。
でも、とりあえずフレデリカ様の了承はとったから、朗読者はあと五人だ。
ニチカにも気をつけなくちゃ。朗読会で詩を披露するのを狙っているのだろうし、ぶちこわされる訳にはいかない。
「それにしても、西か……うん」
私はにやりと笑って、Bクラスに立ち寄った。
「お兄様、ちょっとお願いが」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます