25、幼馴染はロマンでしょう
「あ、あのぅ……ホーカイド様」
「なに?」
「あ、ありがとうございました。助けていただいて……」
中庭から離れて安心したのか、女生徒Aがおずおずと口を開いた。
「いいのよ。災難だったわね」
私はにっこり微笑んでみせた。
「あの、私、Cクラスのマリヤ・アーキタと申します」
「マリヤさんね。もしもまたあの連中に絡まれたら、私か他の監督生に助けを求めればいいわ」
ニチカはしつこそうな気がするので、マリヤにそう忠告しておいた。
そうして資料室の前にやってきたところで、廊下の向こうから血相変えて走ってきた男子に呼び止められた。
「マリヤ!」
「テッド……」
「大丈夫か、マリヤ!お前、マリヤに何をした!?」
マリヤに駆け寄った男子が、きっと私を睨みつけてきた。
おお、マリヤってばヒロインみたいじゃない。そして、立ち位置的に私はまさに悪役令嬢。
やだー、こんなところニチカに見られたら喜ばれちゃう。
「テッド!違うの!ホーカイド様は私を助けてくださったの!」
マリヤがちょっと大きい声を出す。そんな声も出せるのね。
いや、そんな声を出せるほど、彼のことを信頼しているのね。
「とりあえず、お二人とも中に入りません?」
ここでがやがややっていると人目に触れるかもしれない。こんなんでも私は一応この国の四大公爵家の令嬢なのだ。私と揉めているところを誰かに見られるのは、彼らのためにはよろしくない。
テッドは警戒していたが、マリヤに言われて渋々足を踏み入れた。
資料室にはティアナとルイスの他に見知らぬ男子生徒がいた。
「デイビット・モリアーオだ。人手がいるんで連れてきた。性格は悪いが、要領はいいんで、なんでも命じてくれ」
「どうも~」
へらっと笑う青森くん。ルイスの友達か。
「レイシール、そちらの方達はどなた?」
「マリヤ・アーキタ様とテッド・イッワーテ様よ」
マリヤに事情を説明されると、テッドは青い顔で平謝りした。
「申し訳ございません、ホーカイド様に無礼な真似をいたしました!」
テッド・イッワーテ男爵令息とマリヤ・アーキタ子爵令嬢は幼馴染だそうだ。ほほう、いいね。何やら甘酸っぱい気配を感じるぞ。やっぱ幼馴染ってロマンだよね。
「マリヤが中庭で変な女に絡まれていると聞いて慌ててしまって……」
「気にしないで。でも、あのニチカさんという方は少し強引なところがおありのようだから、マリヤさんが困らされないように気をつけてあげてください」
「はい!マリヤをお助けくださってありがとうございます!こいつは昔から人の多い場所が苦手で……入学式でも気分が悪くなるぐらいなんで、大勢の前で朗読なんてとても……」
ふむふむ。
なんとなくわかるわ。前世でもそういう人いたわ。優等生なんだけど、とにかく団体行動が苦手で、人混みなんかに行くと真っ青になっちゃうタイプ。
人前に出たくない、目立ちたくないっていう人間もいるんだって、ニチカにはわからないのかしら?
まあ、彼女は自己顕示欲の塊っぽかったからなぁ。
「そうだ、マリヤさん。良かったら、朗読会のお手伝いをしていただけないかしら。もちろん、詩を読むのではなくて、裏方で。人手が足りなくて困っているのよ」
「お役に立てるなら是非……しかし、私で出来るようなことがありますでしょうか?」
不安げなマリヤに、私は「もちろんよ」と微笑んだ。
お詫びとお礼に、とテッドも手伝いを申し出てくれたので、二人とデイビットを交えて、朗読会の計画を説明する。
残る問題は肝心の朗読者だ。
明日からは準備を皆に任せて、私はスカウトに徹しようと決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます