12、甘酒であたたまろう






 いくら北国の悪役令嬢だからって、関わる男を安易に凍死させすぎなんだよスタッフ。


 そんなんだからゲームのレイシールは「呪いの氷女」とか呼ばれて忌み嫌われてたんじゃねーか。


 我が家に運び込まれて客間に寝かされたジェンスロッドを眺めて思う。

 意識はないが命に別状はないということで、今はとにかく暖めてやるのが一番だ。御者も同じ部屋に寝かせてガンガン暖炉の火を焚いて、侍女達が凍傷にならないように指や足をお湯で濡らした布で軽く擦ってやっている。


 目が覚めたら暖かいものを飲ませた方がいいだろうし、甘酒を作っておこうかな。


 そう思って厨房へ行き、料理長と一緒に作った甘酒を持って客間に戻った。ジェンスロッドの目が覚めてなかったら、甲斐甲斐しく看病してくれている侍女達に振る舞おう。


「レイシールが気にしてやることはないぞ。なんなら、目を覚ましたら即座に叩き出そう」


 お兄様が黒い笑顔でブラックなことを言う。

 そんなこと言わないでくださいよ、お兄様。凍死からの生還仲間ですよ?


 お兄様と共に客間に入って顔を覗き込むと、ちょうどジェンスロッドが目を覚ました。


「あ……?」

「目が覚めましたか?」


 ジェンスロッドは幾度も目をしばたたかせて、焦点の合わない目をぼんやりとさまよわせた。


「起き上がれますか?」

「う……、きみ、は……?」

「私はホーカイド公爵家のレイシールと申します」

「え……?」


 ジェンスロッドがきょとん、とした。


 まあ、意気揚々と婚約破棄しにきて雪崩に巻き込まれて婚約破棄予定の婚約者に助けられてちゃカッコつかないよね。


「どうぞ」

「あ、ああ……」


 戸惑って混乱している様子のジェンスロッドに、甘酒を入れたカップを差し出す。ジェンスロッドは受け取ろうとしたが、まだ指がうまく動かないようでカップを掴めなかった。


「失礼」

「えっ……えっ?」


 私はカップをジェンスロッドの口に運んだ。だって、ジェンスロッドに持たせると落としそうだし、仕方がない。


 ジェンスロッド……面倒くさいな、ジェンスの顔が真っ赤になった。しもやけが悪化したのか?


「はい、あーん。ゆっくり飲んでくださいー」


 カップを傾けると、ジェンスは戸惑いながらもこくこく喉を鳴らした。


「レイシール!そんな奴に構うな!」


 お兄様が飛んできて横からカップを奪う。


「おい、サイタマー。てめぇ、いったい何しに来やがったんだ?」

「え?」


 お兄様がジェンスに詰め寄って凄む。

 

 んーと、確か婚約の際に送られた肖像画を見てレイシールの醜さに嫌気がさして婚約を断りたかったって、アルベルトがなんかのイベントの時にほざいていた気がするな。


「お兄様。ジェ……サイタマー様はきっと婚約を解消に来られたのですわ」

「へ?」

「おそらく、私の肖像画をご覧になって「こんな醜い娘が婚約者なんて冗談じゃない」と憤慨して、ご両親に黙って直接私に婚約破棄を告げにやってきたのですわ」

「は……?」

「なにぃぃぃぃぃっ!!」


 お兄様が鬼のような形相になった。


「サイタマーごとき、こっちから願い下げだ!父上!今すぐ婚約解消をーっ!!」

「えっ、ちょっ……」


 婚約解消と叫びながら走り出ていったお兄様を見送って、ジェンスが顔を青くする。さっきまで真っ赤だったのに、体温が下がっちゃったのかな?もうちょっと甘酒飲ませるか。


「はい、どうぞ」

「え?あ……」


 さっきと同じようにカップを持って行くと、ジェンスはまた真っ赤になった。顔色が忙しい奴だな。


 まあ、何はともあれ凍死は阻止できたので良しとしよう。



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