第18話 映画を見る男と眠る少女

「どれか見たいのあるかい?」

僕は映画がを見るのが結構好きだ。特にやることがないときは大体小説を読むか映画を見るかの二択だ。そして、だからこそというべきか、ジャンルにこだわりもなかった。そういうわけで彼女に話を振ったのだが……

「……」

彼女は口をへの字に曲げて、にらみつけるように色々な映画のポスターをじっと眺めている。……どうしたのだろうか。あまり映画を見ないから、どれを見ればいいか分からないとかなのかもしれない。

「決められない?」

とりあえず話を振ってみる。

「い、いえ、そういうわけでは」

少し焦ったような表情に変わり、彼女はごにょごにょと何かを口中でつぶやいている。

「うーん、じゃあ好きな一桁の数字を言ってみて。僕は末広がりの『8』で」

「え……じゃあ、『4』でお願いします」

「じゃあ次に四則計算……足す、引く、掛ける、割るのどれがいい?」

「……ああ、なるほど。では『足す』でお願いします」

彼女は僕の意図を察したのか、プラスを選択する。

「じゃあ、8と4で12だね。あそこのランキングは10位までだから……2位の映画。えっと……SFみたいだけど、あれで大丈夫?」

「はい。少し気になるのはあったのですが、どうも次もその次も満席のようでして……」

「ああ、あの恋愛映画かな。かなり人気みたいだね」

彼女が気になったというのは、昔、病院で出会った少年少女が成長して再会して……というラブコメだ。頻繁にCMもやっているし、ネットでの評判もすごく良いやつなので、席が空いているのなら僕も見たかった。

「僕もあの映画には興味あるから待ってもいいけど?」

しかしその提案にはかぶりを振った。

「いえ、せっかくですので先程のSFを見ましょう。ちょうど席も空いているみたいですし、こういう偶然に頼らないと私は見ないジャンルのものなので」

「了解。じゃあ、チケット買ってくるから……」

「私は飲み物を。お茶でいいですか?」

「うん、よろしく」


これはまずい。正直、退屈な映画だと思う。映画館の性能を最大限活かした映像美と素晴らしい音響。出演している人の耳の産毛まで良く見え、爆発の効果音はお腹に響く衝撃がある。

しかし……正直、それだけだった。内容はすかすかで、いくら映像や音響が良かったとしても、あまり楽しくない。ストーリーが難解で考察が捗る、というのなら大歓迎だけど、そういうわけでもない。単に説明不足という印象は否めず、またキャラクター達も凡庸というかなんというか、凝ったセリフを言おうとしてよくわからなくなっているという有様だ。

映画スタートから1時間を過ぎた辺りで隣をちらりと見ると、ソフィアさんはうつらうつらとしていた。今朝寝坊していたことからすると、昨日はあまり眠れなかったとか遅くなってしまったとかなのかもと予想する。もしかして、今日のお出かけが楽しみだったとか? なんて、流石に考えすぎだろう。

彼女を起こす必要もないので、とりあえず僕は画面に目を戻し、なんとかこの映画の面白さを見出そうと、画面に集中するのだった。


◇◇◇

よ、予想外の事態! まさか狙っていた恋愛映画がいっぱいだなんて……。

私の思考はストップするも、必死に表情には出さないようにする。私が困っている雰囲気を察したのか、進乃介さんが助け舟を出してくれた。数字で選ぶというのは、なかなか遊び心があって楽しい。

SF自体、あまり見たことのないジャンルだけど……うん、進乃介さんと一緒なら楽しめるかも。

そういうわけで私の内心は期待に膨らみ、ワクワクしながら飲み物を買いに行くのです。


「……」

ね、眠い。昨日は結局明け方くらいまで、あーでもないこーでもないと洋服選びをしてしまった。悩んだ末に選んだお洋服を、進乃介さんは褒めてくれたからそれはそれで大成功だったんだけど……まさか、こんなことになるとは。

大音量の効果音やBGMが流れているはずなのに、私の眠気はどんどん強くなっていく。開始30分でこの有様だったので、ちらりと進乃介さんの様子を確認すると、彼はまっすぐ前を見て画面に集中していた。

その真剣な眼差しに、ちょっぴりどきどきしてしったけれど、睡魔はしっかり私にまとわりついてくる。

……でも、これを頑張って見て、この後のランチで一緒に感想を話したりしたい! 頑張れ、ソフィア!!


……ぐぅ。


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