第19話 誤魔化す彼女とランチタイム

「いや……その、面白い映画デシタネ」

お客さんで混み合った店内でランチを待っているところで、彼女はようやく口を開いたかと思えばそんなことを言う。無表情というか、素知らぬ顔というか……。とりあえず、僕の記憶が正しければ、後半一時間くらい彼女は完全に寝てしまっていたと思う。そうやって寝入る姿は大変可愛らしかったけれど。

「……そうだね。ソフィアさんはどの辺が気に入ったのかな?」

ちょっとした意地悪で、彼女の感想を深堀りしてみる。ちなみに僕は最後の最後までさほど……という感想だった。もちろん、映像と音声はこの上なく素晴らしかったけれど、個人的には映画も小説もそのストーリー性を重視したいのだ。

「……えー……その、音楽が、特にその、最後のエンディングで使われていた曲はとても感動的で良かったです」

最後も最後じゃないか。エンディングの主題歌が流れる辺りで、びくりと肩を揺らして目を覚ましたことを知っているぞ。

僕の半眼に気づいた様子もなく彼女は続ける。

「あと、えっと……主人公とヒロインのジェニファーが爆発をバックにキスするシーンとか、映像の綺麗さに圧倒されました」

そんなシーンは存在しない。ジェニファーは中盤でお亡くなりになっているし、そもそもジェニファーはヒロインではなく、主人公の妹だ。ソフィアさんは殆ど覚えていないのではないだろうか。正直、あまり人に薦めるほどの出来じゃないし、寝てしまっても全然良いと思う。

「……あっ、宇宙人?的なモンスターのデザインは、凄く良かったのではないでしょうか」

「……そうかもしれないね」

もちろん、モンスターも宇宙人も出てきていない。SFといえば、という想像から言っているに違いない。今回の話は、宇宙に進出しても結局人間対人間という悲しさをテーマにしているはずで、それとは相反する異星人との宇宙戦争という要素は欠片もない。でも、どこか焦った様子で取り繕い、墓穴をこれでもかと掘っていく彼女は見ていて面白いし、とても可愛い。いつものように無表情を維持しようとしているが、唇が少し震えて額に汗をかいているので、内心の動揺はバレバレだ。

流石に可哀想になってきたので、話を変えてあげよう。

「映画は楽しかったね。ところで、この後は何を購入する感じだったかな?」

僕の振りに食いつくように、彼女は慌ててカバンからメモを取り出す。

「えっと、えっと……次は小物類を探したい、です」

「さっきのお店じゃなくてっていうことかな」

先程ベットを購入した大型店家具店は実用的なものが多い印象だ。彼女も見ているだけで楽しくなるような、可愛らしいデザインのものが欲しいのかもしれない。

「はい。もちろん、私がお金を出しますのでちょっと……いい感じのものが欲しいといいますか……」

「いや、それも僕と姉さんで持つから。もちろんあまりに高級なブランドとかは無理だけど」

僕は、そしてきっと姉さんも、彼女にはそれくらいお世話になっている。多少良い商品を購入しても構うまい。

「いいのですか?」

彼女は首を横に傾けつつ、確認してくる。

「もちろん。せっかくだから、僕もお箸とかカップとか新調したいし、いい機会だよ」

男一人だと入りにくい雑貨店とかを回ってみるのも楽しいものだ。彼女も楽しんでくれるのなら言うことはない。

「ありがとうございます。それでは、前から気になっていたお店がありますのでそちらに行かせてもらえると」

「了解。じゃあ、丁度料理も来たし、食べ終わったらそこに行こうか」

「はいっ」

先程までのあわあわとした様子はどこへやら、今目の前にいる様子はとても楽しそうだ。表情が乏しいのはいつものことだけど、少しそわそわしたような感じから、彼女の微細な気持ちまで伝わってくる。

恐らく、彼女は面に出さないだけで、感情豊かな女性なのだろう。これも今日の収穫の一つに違いない。

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