第17話 お布団談義
「流石にベッドというわけにはいかないですよね」
「まあ、そうだね」
僕とソフィアさんは大型の家具店のベッドコーナーをうろうろして、彼女の布団を探していた。
「お客さん用の布団が駄目になったからそれを探す感じで」
あの黒く染まった蒲団を思い出すと二の腕にブツブツが浮かぶのを感じる。やはり定期的に掃除はしないといけない。
「了解しました……予算はどれくらいでしょうか?」
今回の買い物は基本的に僕と姉さんで出すことになっている。こちらからお願いして住み込みして貰っているのだから、その環境を整える費用を出すのは当然だろう。
「特に決めてないよ。でも、少し良いものにしようか」
彼女がどれくらいそれを使うことになるかは分からないが、良いものを買っておいても損はない。年に一度くらいは妹も帰ってくるし。
「分かりました。それ以外に何か指定はあります?」
彼女はベッド達から顔を上げてこちらを見てくる。
「うーん、特に無いから好きなもので大丈夫だよ。一番眠りやすいものを選ぶといい」
「ありがとうございます」
彼女は律儀に頭を下げてくるが、むしろ不便を色々かけているだろうし、少し申し訳なかった。
「うーん、これでしょうか?」
彼女はすのこの上に敷かれた布団に寝っ転がる。薄手ながらも低反発のもののようで、中々寝心地が良さそうだ。
「こっちはどう?」
僕はその隣の布団に腰掛ける。こっちはかなり厚手で、身体をしっかり反発してくれる安心感がある。
「そっちにも寝てみますね」
彼女はそんなことを言いながら起き上がり、スルッと僕の横のお布団に潜り込む。自然と彼女の身体がすぐ近くに来て、僕は少し変な気持ちになってしまう。
「っと。どう?」
しかし、その気持ちを押し殺して、僕は彼女に問いかける。彼女は、見たこともない無防備な笑顔で僕に笑いかけてくる。
「……こっちにしたいです」
上目遣いにそんなことを言われたら僕としては何も反論することはない。
「おっけー」
◇◇◇
いけないいけない。ちゃんと意識的に表情を保っていないと、すぐに顔を赤くしてしまうのは私の悪癖だ。だからこそ、普段から進乃介さんの前ではポーカーフェイスを心がけているのだが……今日は楽しすぎてすぐ、にへら顔になってしまう。
「えへへへ……」
進乃介さんがお布団のお会計に向かっている間、私はその後姿を見ながら、口から笑い声が漏れてしまう。はっとして辺りをきょろきょろと見渡すと、店員さんらしき人と目があって、とても気まずかった。
「……むん」
だから、口を無理やりとじてへの字に保つ。こうすれば少なくとも変に笑い声を漏らすことはないのだ!
……よし。
「次に行くのは……」
少し落ち着いた私はカバンからメモを取り出す。進乃介さんに見せたのは本日買うものチェックリスト。もちろんスマホに書き込めばいいのだけど、なんとなくアナログ人間の私はこうしてメモ用紙に色々と記載してしまう。
「……よし、映画ね!」
そしてもう一枚、進乃介さんに見せていないのは……今日のデートプラン。朝寝坊しちゃったのは想定外だったけど、次の予定には十分に間に合う。問題なのはどうやって自然に誘うかなんだけど……
「お待たせ。今日の21時から22時の間に届けてくれるってさ」
そう考えている間に進乃介さんがお会計を済ませて帰ってくる。
「そうでしたか。それは重畳ですね」
今日からみつみさんにご迷惑をお掛けしなくて良いと思うと、私も少し気が楽だ。ただでさえ色々とお世話になっているのだから……いつかなにかの形で返したいなあ。
「ところで、ソフィアさん」
「はい?」
「なんかお会計したら映画のサービスチケット貰っちゃった。もしよかったら何か見に行かない。もちろん、今日の時間の余裕があれ……」
「行きます!!!」
少しはしたなかったかもしれないが、私は食い気味に答えてしまった。なんという幸運!なんという僥倖!
「そ、そっか。じゃあ、映画館に向かおうか」
進乃介さんが出入り口の方に向かいながら、「映画館はどこだったかなあ……」なんて呟きながら、スマートフォンで場所を確認している。私はその一歩だけ後ろで、口元のへの字がぐねぐねと崩れそうになるのを必死で我慢している。
やった、やった!えへへへへへ……
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