第15話 お出かけはメイド服じゃないんだね。
朝、いつもよりも早い時間に目が覚めた。なんとなくやることがなくて、昨日は10時頃に眠ってしまったからだろう。
しかし、そのお陰か、身体も頭もすっきり爽やかだ。
「んー」
ベッドから起き上がりぐぐっと身体を伸ばす。
「お出かけかぁ」
なんだか実感がなかったが、とにかくそういうことになっているのだ。一応昨晩の内に用意してハンガーにかけておいた洋服を見る。しかし、男の夏服なんて代わり映えしないもので、アンクル丈のベージュのテーパードパンツに、紺色にグレーのワンポイントが入ったポロシャツだ(錨のマークが可愛らしく何となく気に入っている)。
だが、朝食で汚れてしまっても嫌なのでとりあえず、パジャマから適当な部屋着に着替える(ジョガーパンツに、六分のオーバーサイズTシャツ)。
リビングに行くと、いつも通り……ではない。ソフィアさんはまだ居なかった。
「あれ……?」
どうしたんだろう、と思っているとドタバタという音が彼女の部屋から聞こえてきた。
そちらを振り返ると、勢いよく扉が開き乱れたメイド服姿のソフィアさんが出てきた。
「も、申し訳ありません。寝坊してしまいました……!」
彼女は少しずれたカチューシャを直しもせずに朝食の準備に取り掛かろうとする。しかし、ここで少し思いついたことがあったので彼女を静止する。
「あ、ストップ。ソフィアさん」
「は、はい!なんでしょう、進乃介さん?!」
彼女は混乱しているのか、様付けでもご主人様予備でもないファーストネームで呼んでくる。しかし、これを指摘するとさらに彼女を混乱の海に落としてしまいそうなのでスルーしよう。
「いや、せっかくだからもう準備して出ない?朝食は外で適当に食べよう」
彼女は珍しく目を丸くして、少し逡巡していたようだが……
「……はい!」
結局は嬉しそうに頷いてくれた。
◇◇◇
さっと着替えて、随分久しぶりに髪にワックスを付ける。あまり上手に整えられないので、結局軽く束感を出しつつ、流すだけだがいつもよりも印象はましだろう。
そのままソファーで麦茶を飲みながら彼女の準備を待つ。女性の準備は長いという偏見を持っていたので、あまり焦らずテレビでも見ながら待つことにした。
8時を過ぎ、僕のお腹が少し減ってきたところで彼女は部屋から出てきた。
「お、お待たせ致しました」
彼女は、薄いグリーンのワンピース。殆ど装飾が無いが、柔らかな生地感が彼女のスタイルの良さを際立たせている。すらっと細長く、大変スマートだ。背中まである白金の髪の毛を少し子供っぽいシュシュでまとめており、いつもと違う新鮮な感じを受ける。
正直見惚れてしまうほどの可憐さなのだが、僕の頭には全く関係ない思考が芽生えていたのである。
(あ、メイド服じゃないんだ)
おそらく僕からの感想を期待しているであろう彼女のそわそわした目線を感じながら、僕はそんな失礼なことを考えていた。
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