第13話 予想に違わぬ姉の指令

「えー、別にいいんじゃない?ソフィアちゃんと一緒のほうが寂しくないでしょ?」

みつみ姉さんと電話して相談――いや直談判した結果、このような言葉を頂いた次第である。

「かるーい」

ついついそんな返答をしてしまったけど、恐ろしいのは姉さんのこの言葉が本心だと思われるからだ。こういう人なんだよな……。ちなみにたちが悪いことに、姉さんのこういう思いつきは大体良い方向に転ぶ。だからこそ、深慮遠望を心掛けて欲しいということも中々言いにくい。

「いやいや、でもさ、流石に駄目でしょ。若い女の子が僕みたいな男と一緒に暮らすなんてさ……」

姉さんの中ではもう結論は決まっているとしても、ソフィアさんは別である。ここは、彼女からも援護射撃を貰えばよいのだ。

「うんうん、そうだね。でもさ、本人は嫌がっていないんでしょ?」

「えっ?」

「私は全く問題ありません」

僕のすぐ横からソフィアさんの声がする。いま、みつみ姉さんとはリビングでタブレットを起動して話しているのだ。僕一人よりもソフィアさんが一緒の方が良いかと思ったのだけど……なぜだか知らないけどソフィアさんはみつみ姉さんの味方のようだ。

「でも……」

「私は全く問題ありません」

「あの……」

「私は全く問題ありません」

「そ……」

「私は全く問題ありません」

「……」

「私は全く問題ありません」

結論は言うまでもない。とりあえず、ソフィアさんが頑張って倉庫部屋の掃除をしてくれたのは無駄にならなかったのは良かったと思う。

……大丈夫かなあ。


◇◇◇

「いただきます」

ソフィアさんがここで暮らすようになって良いことをまず一つあげるとすれば、きちんとできたての食事を取れることだろう。味も栄養バランスも最高で、この味になれてしまうと彼女が来なくなったあとが怖い。

しかし、今はとりあえず目の前の食事を楽しもう。

「そういえば、倉庫……ソフィアさんの部屋の掃除は終わった?」

「はい。概ね終わりました。といっても、流石に処分するわけにもいきませんので、私が生活するスペースを確保して、掃除しただけですが」

彼女は肉団子の甘酢あんかけを口に運ぶ。彼女は箸の使い方が上手い。そんなことに少しだけ目がいってしまった。

「なるほど。足りないものはあるかな?」

こういう言い方をしたが、むしろ足りているものの方が少ないのではないだろうか。少なくとも、こちらから来て頂いているのに不自由させるのは大変良くない。

「ええと……まあ、少しだけ。とりあえず、私はどこで眠らせて頂くのでしょうか?」

彼女は遠慮がちにそんなことを言う。

「ああ、さっき姉さんが言っていたとおり、週末に色々必要なものを買うので、それまでは姉さんの部屋を使って大丈夫」

姉さんに確認したところ、そういうことになった。流石というべきか、姉さんは会社関係の書類や見られたくないものはしっかり整理整頓処分をしていったらしい。僕も見習ってしっかり管理しとかないといけないかもしれない。

「……承知致しました」

「?」

なんだ?少し不満そうというか、残念そうというか……そういう感じにも見える。といっても少しだけ眉を動かしただけなので、僕が気にしすぎだろうか。


その夜、僕はベッドに潜り込むと自分のものではない匂いを感じ少しドギマギしてしまった。一瞬、消臭剤を巻いて雑念とともにその匂いを消してしまおうかと思ったが、それもなんだか失礼な気がして止めた。だから結局少し眠るのが遅くなってしまったが、自分の選択の結果なので仕方ないだろう。


◇◇◇

「むむむ……」

可愛らしい紺色のパジャマに身を包んだソフィアは眉をひそめつつ、みつみのベッドの中で唸っていた。視界に入る天井に何が見えているわけでもないだろうに、その表情は不満たらたらである。

「もう一日くらい、進乃介さんのベッドで寝たかったかも」

彼女は昨日のベッドでの香りを忘れられないようで、そんなことを漏らす。

「いや、でも……今週末は二人で出かけられるのです!それで良しとしましょう!!」

彼女は勢いよく、『ふんす』と鼻息を漏らしつつ途端に表情をデレデレと崩す。

ちなみに、進乃介は『週末に色々必要なものを買う』と言っただけで、彼女と二人で買いに行くことまで想定していない。しかし、ソフィアの中ではすでにそういうことになってしまっている。

結局、彼女も少しだけ眠るのが遅くなるのだが、これはこれで仕方ないのかも知れない。

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