第7話 お食事しましょ
守実ソフィア。21歳。メイド服が好き。
色々話していたはずだが、もうその印象しかなかった。
「進乃介さん」
衝撃の話から会話は尻すぼみに終わって、僕は黙って本を読んでいた。そこで彼女から声を掛けられた、というところである。
僕は振り返って彼女の顔を見ながら返答する。
「どうかしましたか、守実さん?」
「……」
「あれ?」
しかし、僕の返事を聞いて彼女は僕から顔を反らし、何も返してくれない。なんだろう、と思ったもののすぐに『もしかしたら』という点に思い至る。
「どうかした、ソフィアさん?」
「はい、もう今日の業務は終了致しましたが、みつみさんをお呼びしたほうがよろしいでしょうか?」
僕が先程の話のとおり『普通に』呼ぶと、彼女はぱっとこちらを向いて何事もなかったように返事をしてくれる。
まあ、いいんだけどね。
「ああ、ちょっと声を掛けてみるよ」
本も三分の一ほど読み進めており、ちょうど良いところで切り上げることができた。
気づけばもう八時近い。鼻孔をくすぐる香りがリビングに漂っていている。しかし、バター、にんにく、料理酒などなど様々な調味料の香りが混ざっていて、メニューを事前に知っていなければ今日の晩ごはんが何かは分からないだろう。
おまけで貰っていた栞を挟み、僕は全然部屋から出てこない姉の元に行く。
「みつみ姉さん? 入って大丈夫かな?」
彼女の部屋にノックをして確認する。返事がなければ軽く覗いてみようかと思ったが、すぐに返事がある。
「いま仕事終わるところだからリビングで待っててー」
「わかったー」
どうやらもう仕事が終わるというところらしい。姉さんは8時前から働いているはずなので、かなり残業時間だ。
「ソフィアさん、姉さんもそろそろ来るみたいだから夕食を食べようか」
「はい、ご準備致します。ただ、私はご一緒するのでしたか?」
リビングでついついそのように声を掛けてしまった。何となくこの時間に家にいるのだから、うちでそのまま食事するという発想だったがそういえば違ったか。
特にソフィアさんは21歳。同居していた従姉妹と同い年なので、何となく一緒にいて気安くなっているのかもしれない。
「ああ、ごめ――」
「なんの話ししているのおー」
と、そこでみつみ姉さんが部屋から出てくる。水色のブラウスにロングスカートで、部屋着ではない。業務を終了して着替えずにそのまま来たのだろう。
「いえ、進乃介さんにお夕食に誘われたのですが……」
その言い方だと僕が彼女をデートに誘っているような誤解を招かないかと思ったものの、みつみ姉さんには彼女の言わんとすることを正しく理解したようだ。
「ああ、いいじゃない。ソフィアちゃんもこのまま一緒に食べましょう。それとも自分で作ったものだと食べにくい?」
「いえ、そういうわけでは――」
「じゃあ、決まりね! 盛り付けとかは私達も手伝うわ」
「あの――」
「お腹減っちゃったからご飯食べながらお話しましょう」
「……はい」
姉さんの勢いがすごく、何か言おうとしていたソフィアさんを押し切ってしまった。もしかしたら、仕事のときはこんな感じなのかもしれない。みつみ姉さんの新しい側面を今更知ってしまったような気がする。
とにかく、姉さんとソフィアさんで盛り付けを、僕はダイニングテーブルの片付けをする。こうやって三人で作業するというのも従姉妹のことを思い出して何だか少し懐かしい。ソフィアさんと比べると彼女は大分背が低かったけれど。
すぐに準備も終わりいよいよ夕食だ。今日はロールキャベツのトマト煮込み、野菜たっぷりの洋風スープ。主食には斜めに輪切りされたフランスパンが用意されている。パンにつけるバターやオリーブオイルはないが、「脂質がオーバーしてしまうのでなしにしました」というのがソフィアさんの弁である。はっきり言ってこの家に入居してから一番豪華な食事である。スープに入っているズッキーニなんてスーパーで購入したこともない。
ソフィアさんも姉さんの勢いに負けて、一緒に食事をしてくれる。一人いるだけでも食卓の雰囲気は全く異なるもので、いつもと違う特別感があった。
「いただきます」
三人一緒に挨拶。僕の隣には姉さん、僕の正面にソフィアさんという席である。今後はこれが日常的な光景になるのかもしれない、何となくそんな予感があった。
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