第45話 少年の覚悟

「源十郎さんに優雅さん!? 何があったんですか!?」


 出雲が二人の元に駆け寄ると、優雅が来るなと叫んだ。

 優雅の剣幕に押された出雲は、駆け寄る足を止めてその場に留まることにした。


「騎士団長が来る……源十郎さん!」

「言われなくても分かってる!」


 優雅が魔力を用いて背後にいる魔法騎士団の職員や隊員たちを守るために防御魔法を展開すると、源十郎が自身の魔力を優雅の防御魔法に注ぎ込んで強化をした。


「源十郎さんとの防御魔法ならば!」


 優雅が叫んだ瞬間、そとから源十郎と優雅の防御魔法に向けて黒色の光線が放たれていた。その黒い光線が二人の防御魔法に衝突をすると、耳を劈く嫌な音を響かせながら二人の防御魔法と拮抗をしていた。


「源十郎さん! ヤバイです!」

「見りゃわかる! 防御魔法にヒビが入り始めているが、気合を入れろ! 俺たちが負けたら後ろの全員が死ぬぞ!」


 源十郎が弱気になっている優雅を鼓舞していると、出雲が俺も守ると優雅の作った防御魔法に魔力を流し始めていた。


「来るなと言ったろう! 早く後ろに下がれ!」

「嫌です! 例え死ぬとしても、抗ってから死にます!」


 源十郎が出雲の言葉を聞くと、なら男を見せろと叫ぶ。

 出雲が見せますと気合を入れて魔力を流すと、防御魔法のヒビ割れが直り始め、黒い光線と拮抗をし始めていた。


「このまま押し返すぞ!」


 源十郎の言葉と共に一歩、また一歩と前進をしていく。

 防御魔法が壊れないように慎重に進み1階ロビーの壊れた玄関扉を抜ける瞬間、黒い光線が弾けて轟音と共に出雲たちは後方に吹き飛んでしまう。

 出雲は後方に倒れている隊員たちに衝突してしまい、怪我を負っている隊員が受け止めてくれたようであった。


「大丈夫か!? 怪我はしていないか!?」


 出雲を受け止めた男性隊員が吹き飛んでしまった出雲を心配すると、出雲は額から血を流してはいるもののそれ以外に怪我はしていないようであった。


「だ、大丈夫です……それより源十郎さんたちは!?」


 出雲が周囲を見渡すと、エレベーター付近にて倒れている源十郎と腹部から大量に出血をしている優雅の姿が出雲の目に入った。

 二人の姿を見た出雲は痛む頭部の傷など気にせずに、一直線に駆け寄った。出雲は優雅の傷を見て、その傷の深刻さが一目で理解が出来た。


 優雅の態勢が崩れないように背中を手で押さえながら、周囲に向かって助けてくださいと叫ぶも、出雲の声は誰にも届かない。


「どうして誰も来てくれないの! 優雅さんが死んじゃう!」


 出雲が涙目になりながら助けてくださいと叫び続けていると、優雅が消え入りそうな声でもういいと出雲に語り掛ける。


「俺はまだ大丈夫だ……それより源十郎さんを……」


 優雅の側に倒れている源十郎は両腕から出血をしており、剣を持つことが叶わないと出雲の目からでも源十郎の怪我の深さが見れる。


「大丈夫ですか!?」

「お前か……あの爆発でこの有様さ……俺も年老いたな……」


 源十郎が痛みに耐えながら体を起こすと、俺はもう戦えないと出雲に言う。優雅もすぐには動けませんと腹部に右手を置いて何度か咳き込んでいた。


「そんな……二人が戦えなかったらどうすれば……」


 悔しいと言いながら出雲はどうすればいいのか悩んでいると、源十郎が轟雷を手に取れと出雲に言った。その言葉を聞いた出雲は、いいんですかと目を見開いて驚いてしまう。

 

 以前、源十郎に触ったら殺すと言われていたので、轟雷を手に取れと言われて本当に手に取っていいのか出雲は迷ってしまっていた。


「俺はもう動けない……動けるお前に轟雷を任せる……」


 その言葉と共に源十郎は意識を失ってしまった。

 優雅は早く行けと出雲に言うと、痛みに耐えながら立ち上がって1階ロビーに来たばかりの女性職員に傷を手当てを頼んでいた。


「行ってきます!」


 その言葉を発した出雲は、源十郎の側に落ちている轟雷を手にした。轟雷を握ると、そこには源十郎のと思われる血が付着していた。

 源十郎の血が付着した自身の右手を見ると、ドクンと心臓が高鳴った。出雲の突然の心臓の高鳴りを聞いていたミサが戦うのと声をかけてきた。


「その剣を持って戦うの? 今の出雲君の力じゃ死んじゃうよ? 私では抱えられない傷を負って、二人とも死んじゃうけど……それでも戦うの? 他の人に任せていいんじゃないの?」


 ミサの口調は出雲が思っていたよりも優しさが籠っていた。声を上げて否定をするかと思っていたが、予想外の口調に一瞬戸惑ってしまう。

だが、ミサが優しい口調で引き留めるも、出雲の心は決まっていた。


「それでも俺がやらないと。今は他の隊員や職員の人たちは動けないから」

「そっか……気持ちは変わらないのね……なら、一緒に戦いましょう。私も力を貸すわ。一緒に倒しましょう!」


 力を貸すわと言うミサの言葉を聞いた出雲は、笑顔になってありがとうと返答をする。ミサはまだ全快じゃないけどと言いながら、出雲の前に姿を現せて両手を出雲の両頬に当てた。


「私の姿は出雲君にしか見えないから安心して」


 そう言いながら出雲に自身の力を注ぎこんでいく。

 ミサの魔力や戦い方を少しだけ分け与えてもらうと、数秒間激しい頭部の痛みに襲われたが、何とか出雲は耐えることが出来た。


「大丈夫? これをすると痛みが激しいから、あまりしたくなかったけど私の戦い方を少し出雲君の脳に移したわ。今までとは戦いの知識が全く違うはずよ?」

「た、確かに……知識量が全く違うや……これで少しなの?」


 頭部を抑えながらミサの顔を見る。

 ミサは痛みはもう平気なのと心配そうな顔で出雲を見ると、少しだけまだ痛いと出雲は顔を歪ませながら返答をした。すると、出雲のもとに愛理と竜司が駆け寄ってきた。


「お前なにしてるんだ! お前も手伝え! こっちは大変なんだよ!」

「さっきの爆発で無事だったのね! 優雅たちは無事なの!?」


 二人とも全く違う話で出雲に話しかけると、出雲は行ってくるよと二人に言う。

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