第46話 守るための戦い

「お前なに言ってんだよ! 俺たちじゃ勝てないぞ!? 第一部隊でも勝てない敵なんだから! さっさと行くぞ!」


 竜司が出雲の右腕を掴むも、出雲はその腕を振り払った。愛理は死ぬわよと出雲に詰め寄るも、誰かがやらないといけないんだと愛理に真剣な面持ちで言った。


「誰かがやらないといけないなら、今動ける俺が行くしかないんだ。それに、源十郎さんにこの剣を任されたからな」


 源十郎に託された轟雷を二人に見せた出雲は、この想いを無駄には出来ないと言って1階ロビーから出て行こうとする。

 出雲の背中を見ていた出雲は、もう会えないかもしれないと考えてしまう。その考えが浮かんだ瞬間、愛理は出雲の背中に抱き着いていた。


「篁さん……?」


 突然抱きしめられた出雲は頬を紅く染めながら愛理の温もりを背中で感じていた。ミサは英雄色を好むかなとニヒルな笑顔を浮かべながら出雲の顔を下から覗き込んでいた。


「今出て行ったらもう会えない気がして……せっかく同級生として切磋琢磨しているのに、せっかくあんな男だけど3人で出会えたのに……」


 外から爆音が聞こえる中で愛理は思っていることを出雲に伝える。

 出雲は愛理の気持ちを聞いて、それでも今行かないと一生後悔する気がするんだと言いながら愛理の手を自身の体から引き剥がした。


「ごめん。だけど、託された思いを遂げないと男じゃないんだ。竜司! 篁さんを頼む!」

「そこまで言うなら止めないが、死ぬのだけは許さないぞ。死んだら俺は一生お前を恨むからな!」


 竜司がそう言いながら愛理の左腕を掴んで1階ロビーの奥に連れて行こうとするが、愛理はそれでもそこから動こうとはしなかった。


「行かない! 黒羽君を行かせちゃダメ!」


 愛理が竜司の腕を振り払って出雲に近づこうとすると、不思議な人物の姿が目に入った。

 その人物とは、出雲の右側を歩く綺麗な白色の6枚の翼を持つ白銀の髪色をしているミサであった。


「私に任せて。あなたはここにいなさい」

「え……」


 ミサは愛理にだけ姿を見せ、任せてと言った。

 愛理はミサの姿を見て声を聞くと、その場に立ち尽くしてしまう。


「俺に任せてくれ。二人はここにいてね」


 出雲は前を向きながら愛理と竜司に言うと、1階ロビーから外に出た。

 愛理と竜司は出雲に生きろよと言い、二人とも奥の方に避難をした。


「黒羽君が外で戦うなら、私たちは負傷者を助ける戦いをしましょう!」

「そうだな。あいつが戻ったら一発ぶん殴ってやる! 早く行くぞ!」

「そうね。今は私たちが黒羽君の帰る場所を守らないと!」


 愛理と竜司は瑠璃に話しかけると、手伝えることをしていく。

 二人が瑠璃に話しかけると、景昌も合流をして4人で手当てをしていく。


「黒羽は外に行ったのか? あいつは自分の命をもっと大切にしろってのに……」

「託された思いを果たしに行ったのでしょう……私たちは黒羽君の帰りを待ちましょう」

「そうだな……生きて戻れよ……」


 景昌は救護をしている隊員に救護セットを貰い、それを愛理たちに配りながら出雲が無事に帰ってくることを祈っていた。

 4人が出雲のことを想っている最中、出雲は魔法騎士団本部の外の惨状に驚いていた。


 魔法騎士団本部の側にある建物が崩壊しており、陥没した地面や上部だけ崩れているビルがあるなど酷い有様であった。

 出雲が酷いと一言発すると、近くにある崩壊しているビルが爆発をした。爆発をしたビルからは、1人の男性隊員が出雲の前に吹き飛んできた。


「だ、大丈夫ですか!? 無事ですか!?」

「ぐぅ……がっふ……」


 喋ることもままならないその男性隊員は、出雲を見ると逃げろと消え入りそうな声で喋った。


「どういう意味ですか!?」


 出雲がそう喋った瞬間、目の前に銀色の鎧を着ている一人の初老の男性が降り立った。その初老の男性を見た瞬間、出雲は目を見開いてしまう。


「き、騎士団長……どうしてなんですか!」


 目を見開いて目の前にいる騎士団長に向けて叫ぶも、騎士団長は出雲に対して消えろと低い声で言い放つ。ちなみに、騎士団長の名前は朝倉旭であり、魔法騎士団の騎士団長を25年間務めている。


 出雲の目の前にいる朝倉旭は昔に書籍で見た写真そのままの顔をしており、消えろと出雲に言った。その朝倉旭の低い声を聞いた出雲は怯えてしまう。

 しかしミサが怯えちゃダメよと出雲を鼓舞すると、出雲はありがとうと言いながら態勢を整える。


「この剣を託されたんだ! 俺は逃げない!」

「私も一緒に戦うわ! 出雲君は1人じゃないわ!」


 ミサの言葉が脳内に響いていると、出雲の体が淡く光って右側にミサの姿が現れた。出雲は分離して大丈夫なのかとミサに話しかけると、少しは大丈夫よとミサは言いながら笑顔を出雲に向けた。


「いつまでも出雲君の精神世界にいられないからね。それに、今は一緒に戦わないといけない時みたいだし」

「頼もしいよ! 久しぶりにミサさんの姿を現実世界で見た気がする。綺麗な羽が戻ってきてるね!」


 出雲がミサの羽のことを言うと、まだまだ途中だけどねと返す。

 ミサは以前に着ていた服とは違い、現代風のTシャツに短パンを着ていた。出雲は前の服とは違うねと言うと、出雲君の妹を見て服装の知識を得たのよと笑顔になっていた。


「ほら、無駄話をしている暇はないわよ? 目の前の人が殺気を放っているわ」

「殺気!? 全く感じなかったけど!?」

「まだまだレベルが足りないわね。ほら、今すぐにでも斬り殺されそうよ?」


 ミサが自身の右手に、以前の戦闘の時とは違う金色とピンク色の配色が美しい長剣が出現した。ミサはここまで力が戻ってたのねと言うと、出雲に構えなさいと指示をする。


「来るわよ! 油断をしたら一瞬であの世に旅に行くことになるわよ!」

「そんなに!?」


 出雲が轟雷を構えた瞬間、騎士団長がミサに向けてもの凄い速さで距離を詰めていく。ミサは出現させた剣に力を込めて騎士団長の攻撃を防いでいた。


「重い攻撃ね……老いを感じさせない攻撃だわ……」

「貴様……何者だ? そのような羽を持つ人間など知らないぞ?」

 

 ミサと朝倉騎士団長は剣を交えさせながら何やら話しているようであり、二人の攻防を出雲は佇んで見ているしかなった。また、二人の武器である剣のぶつかり合う重い金属音が辺り一帯に響いていた。

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