第44話 揺れる本部

「早く教室に戻ってくれよ。もうすぐホームルームの時間になるぞー」


 景昌が声を上げると、出雲たちは壁に剣を立てかけて訓練施設から出た。教室に出雲は戻ると、やっと終わったとため息をついて言う。

 愛理はまだホームルームがあるわよと、椅子に座って机に突っ伏している出雲に話しかけた。


「実技訓練がきつかったよ……」

「そうよね……私も実技訓練で瑠璃さんに叩き潰されたわ……」


 出雲と愛理が息を合わせるようにため息をついていると、教室に景昌と瑠璃が入って来る。景昌は瑠璃に書類を配ってというと、出雲と愛理に話しかけた。


「竜司は予想以上に怪我が酷かったので先に帰ってもらった。ちとやり過ぎたみたいだ」


 左頬を掻きながら空笑いを浮かべている景昌に、書類を配った瑠璃が拳骨を浴びせていた。


「いつもやりすぎなのよ! 少しは加減を覚えなさい! あんたは昔からいつもいつもいつも!」

「ごめんって! 気を付けるから!」


 瑠璃が頬を膨らませてぷりぷりと怒っていると、景昌がごめんと言いながらなだめている姿がそこにあった。

 出雲は二人は良いコンビみたいだねと愛理に言うと、愛理は痴話喧嘩ね言いながらクスクスと笑っているようである。


「さて、瑠璃も収まったようだし明日の予定を伝える。明日は今日と同じように学科授業と実技訓練をする予定だ。今日は家でゆっくりと休んでくれ」

「ゆっくり休んでね? じゃないと明日が辛いわよ?」


 瑠璃の言葉を聞いた出雲は気を付けまーすと手を上げて返していた。

 景昌は出雲と愛理の二人を見て、気を付けて帰れよと笑顔で二人を見送った。


 出雲は愛理と共に魔法騎士団本部を出ると、そのまま二人揃って駅に向かっていた。出雲は横を歩く愛理にとうとう始まったねと話しかける。


「そうね。初めの任務が驚きの連続だったけど、魔法高校って感じがやっとしてきたわね。実技訓練で思い知ったことは多いけど、これから私は強くなるわ!」

「俺も負けないように訓練しないとな!」


 二人は授業のことを話しながら駅に入ると、そのままお互いの路線に向かうために分かれた。

 出雲は電車を乗り継いで家に戻ると、やっと初日が終わったと自室のベットに寝転がって疲れたと呟いていた。


「これから苦しいけど、楽しい毎日があるといいな。ミサさんに教わりながら実技訓練もして、夢に向かってやっと進めた気がする」


 出雲が天井を見ながら右手を握り締めて微笑していると、ミサがビシバシ鍛えるわよと目の前に現れて話しかけてきた。


「私が教えた方がよさそうだし、出雲君が強くなってくれれば私の治癒が順調に進むからね」


 出雲の目の前に現れたミサは訓練の時とは違い、その姿がハッキリと見えるようになっていた。


「段々と回復してきているから、出雲君にしか見えないように姿を現せるようになったよ」

「それはよかった! ハッキリ見えるようになるとまた印象が違うね。今日は羽を出してないの?」

「あれは見えないようにしているだけだよ。ここで見せたら邪魔かなと思ってね」


 出雲とミサは他愛もない話をしながら体を休めていた。

 出雲はまた明日から頑張ろうとミサに言うと、ミサが協力するわと返す。しかし出雲が思う楽しい毎日が来ることはなく、出雲は争いの中心に巻き込まれる日々が来ることとなってしまう。 


 出雲が国立中央魔法学校高等部に入学をし学科や実技訓練を始めてから数週間が経過をしたころ、唐突に事件が起こった。

 魔法騎士団の騎士団長が姿を消したという報告であった。魔法騎士団に勤める職員があらゆる手段を用いて捜索をしているが一向に見つけられないとのことであった。


「雑誌でしか見たことがないけど、騎士団長が失踪したって本当なのかな?」

「職員の人たちや先生たちの慌てようを見ると、真実みたいよ? ここ数日、学科の授業はなく、ドールとの自主訓練ばかりだったもんね」


 出雲と愛理が景昌たちの心配をしていると、竜司は何かの本を読んでいるようである。出雲が竜司の読んでいる本の表紙を見ようとするも、ブックカバーがかけられており、表紙を見ることが出来なかった。


「覗き込むな。お前には過ぎた本だ」

「そんなこと言うことはないじゃん!」


 出雲がそんなことを言うなと言った瞬間、巨大な揺れが起きた。出雲たちは体に力を入れて倒れないようにするので精一杯であるようで、出雲は机の角を掴んで歯を喰いしばっていた。


 巨大な揺れが発生してから20分が経過をすると、次第に揺れが収まりつつあった。出雲たちはとりあえず教室を出ることにし、階段を下りて1階ロビーに移動をした。


「ここに来れば誰かに会えるはず……な、なにこれ!? 何があったの!?」


 出雲がエレベーターを降りてみた光景は悲惨なものであった。

 1階ロビーには怪我をしている魔法騎士団の隊員たちが地面に横たわっており、職員たちが手当てをしている光景が広がっていた。


「隊員たちが頭や腕から血を流しているし、腹部から出血をしている人もいる……」


 出雲が驚いていると、愛理が手当てを手伝ってくるわと出雲と竜司に言って駆け出していた。

 

 竜司はとりあえず話を聞いてくると言って出雲達から離れてしまう。

一人残ってしまった出雲はどうしようか悩んでいると、目の前を瑠璃が横切ったことに気が付いた。


「雨宮先生!」


 出雲の声を聞いた瑠璃は、走る足を止めて声の聞こえた方向を向いた。


「黒羽君!? どうしてここにいるの!? 教室に戻ってなさい!」

「で、でも! 突然巨大な揺れが起きたから、1階で何があったか聞こうと思って来たんです……」


 出雲の言葉を聞いた瑠璃は、今大変な状況なのと出雲に言う。


「とてつもなく強い敵が現れて、第一部隊でも苦戦をしているの! 他の部隊の隊員じゃ相手にならなくて、みんな瀕死の状況なの!」

「第一部隊でも苦戦しているんですか!? どんな敵なんですか!?」


 瑠璃は言っていいのかと一瞬悩むも、伝えた方がいいわよねと決めて出雲に言うことにした。


「敵は騎士団長なのよ……」


 騎士団長。

 そう瑠璃の言葉を聞いた出雲は、目を見開いてどうしてと小さく言葉を発した。


「職務中に突然騎士団長が、聖痕と何度も連呼をしながら部屋を出て行ったそうです。そのまま数日間姿を消していました……だけど、先ほど以前の姿とは違う姿で現れて……騎士団員たちを襲ったんです!」


 涙を流しながら出雲に向けて瑠璃が話すと、出雲は何が起きているんだと考えていた。


「聖痕って何なんだ? いつどこで何をされるんだ?」


 出雲は中学生の頃に見た聖痕の導きと何度も呟いていた魔法犯罪者のことを思い出していた。

 あの時に見た魔法犯罪者は、虚ろな目をして聖痕の導きと何度も呟いていたと出雲が言うと、瑠璃が騎士団長も聖痕の導きと言いながら騎士団員を襲ったようですと涙を拭きながら話していた。


「あ、治療の最中だったわ! ごめんなさい! 私は行きますね! 黒羽君たちは早く教室に戻りなさい? いいわね?」

「分かりました。 二人を探して戻ります!」

「絶対よ?」


 その言葉と共に瑠璃は腹部から血を流している男性隊員のもとに走って行く。1階ロビーには治療をしている職員たちと、怪我を負っている騎士団員で溢れており、出雲は改めて騎士団長の強さを感じていた。


「雑誌で見たイメージだったけど、どの騎士団員よりも強くて最強なんだな。既に還暦を迎えていると見たけど、衰えを感じない強さみたいだ……」


 倒れている騎士団員を見て出雲は騎士団長の強さを想像していた。

 先日見た源十郎よりも数段階強いのではないかと身震いをしていると、1階ロビーの玄関ドアを突き破って誰かが入って来た。


 1階ロビーの玄関ドアを突き破って入って来たのは源十郎と優雅であった。源十郎は左頬を斬られており、そこから血を流しているようである。 

 優雅は右腹部を斬られているようで、顔を歪ませながら地面に片膝をついていた。

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