第43話 出来ないこともある
「剣を両手で握って、左半身を下げて。そうするとすぐに体を動かせるようになるわ。そして、そのまま何度か剣を振るうの」
「こ、こうかな?」
「もっと脇を締めて! じゃないと鍔ぜり合った時や弾かれた時に武器を失くすわよ!」
「は、はい!」
いつもとは違うミサの声色と表情を見て、本気で教えてくれているんだなと出雲は感じていた。
武器を握る力、視線の動かし方、体の動かし方などミサの指示に従いながら訓練をしていると、ミサがそこのドールを使ってみましょうと出雲に言う。
「まだ動きしか教わってないけど、もうドールを使うの?」
「今はただの動きのようなものだから、ドールの攻撃を避けながら攻撃をすれば敵と相対した時にある程度は動けるんじゃないかしら?」
「なるほど……じゃあ、ドールを動かすね」
出雲はミサにそう言うと、ドールの背後にある小さな端末を操作した。
端末にはドールの力強さや攻撃速度などいくつも操作できる項目があった。出雲は全ての項目を低ランクに設定をし、ミサに操作をしたよと話しかけた。
「なら、ドールの攻撃を先ほど教えた動きで捌いてください」
「急に!?」
出雲が驚いている最中、ドールが右手に持つ木刀で攻撃を始めた。ちなみに、訓練所にある武器類は刃部分が削られているので体に受けても切れることはない。
出雲は右手に持つ剣でドールの木刀を受けたり受け流したりしている。
出雲は教わったことを頭に浮かべながら、武器だけでなく体全体で移動をしてドールとの距離を詰めたり、視界の端に移動をしながら連続で攻撃をするなどしていた。
「良い感じね。その感覚を忘れないようにするといいかも。後はより動きを洗練させたり、相手の動きを見てその行動を先読みできればより動きやすくなるわよ」
動きを先読みと聞いて、出雲はそんなこと出来るわけがないよとミサに言うと、今はそれでもいいのよと言う。
続けてミサが次はねと言い、出雲にドールを止めるように言った。
「次は剣に魔法を付与させてみましょう。あっちで戦っている二人がよくやる戦法よ。出雲君はそれが出来ていないから、出来るようになれば先ほどの動きと共にすることで、より戦術の幅が広がるわ」
「分かった!」
出雲はミサに言われるままに自身の魔法を剣に付与させようとするが、どうすれば付与させることが出来るか分からなかった。
ミサは付与が出来ない出雲を見て、剣全体を攻撃魔法で覆う感じよと言う。
「覆う感じ……攻撃魔法を即時発動しないで、抑え込んで包み込む……」
出雲はそう呟きながら剣に光属性の攻撃魔法を付与させようとするが、何度も失敗をしてしまう。剣に付与をする瞬間に攻撃魔法が弾けてしまい、一向に定着しなかった。
「どうして!? 教わった通りにやってるはずなのに!」
出雲はどうしてと何度も言いながら剣に付与を試みていたが、何回やっても成功をしなかった。
出雲が苦戦をしている最中、愛理と竜司は瑠璃と景昌に指南を受けつつも苦しい訓練をしていた。
「あの二人は実技初日だけど、良い感じに動いている……俺もちゃんと出来ないと!」
これでも出来ない、これはどうだと何度も呟いているとミサが出雲君にはまだ早かったみたいねと話しかけた。
その言葉を聞いた出雲は付与をする練習を止めて、ミサの目を見てまだいけると出雲は言った。
「あまり無理をすることじゃないわよ。訓練は始まったばかりなんだから、これからよ」
ミサは出雲の唇に右手の人差し指を軽く当てる動作をすると、景昌が訓練は終わりだと言った。出雲はその声を聞くと、もう授業終わりの時間なのと驚いていた。
「休憩を入れないですまなかった。2時間通しで実技訓練をしてしまったな。教室に戻ってすぐにホームルームを始めよう」
「訓練お疲れ様! 今日は初日の訓練だから、これから伸ばす部分や足りない部分を補うようにしていきましょう!」
瑠璃は地面に座って息が荒くなっている愛理の手を掴む。
「手荒になってごめんね。でも、これくらいしないと訓練にならないと思ってね」
「いえ、むしろありがたいです……私はもっと強くなって、見返すんです!」
愛理の言葉を聞いた瑠璃は、見返す前に力を付けましょうねと笑って言う。竜司は景昌との訓練によって、完膚なきまでに叩き潰されたようである。
地面に大剣を放り投げて、大の字で床に寝転がっていた。唇を切っているようで、そこから血が流れているのが出雲の目に入る。
「お前は救護室に行くといい。そこで手当てをしてもらえ」
景昌が竜司にそう言うと、竜司はその必要はないと景昌の手を払いのけて足を震わせながら立ち上がる。
しかし、立ち眩みによってよろけてしまった竜司は、愛理の早く行きなさいとの言葉を受けて舌打ちをしながら部屋を出て行った。
出雲が景昌たちを見ていると、出雲の目の前に立っているミサが終わったみたいだねと出雲に話しかけてくる。
「みんな終わったみたいだね。私は一度休むね」
「あ、ミサさんありがとう! 凄い良い訓練だった!」
笑顔で出雲がミサに言うと、霧が消えるようにミサの姿が見えなくなった。出雲はミサの姿が見えなくなると、頭の中でありがとうとミサに向けて感謝を述べた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます