第42話 実技訓練

「さて、ここで午後の時間を使って実技の訓練を始めよう。先日の実践は劣るかもしれないが、訓練をすることで動き方や自身より強い敵に一矢報いることが出来るかもしれないからな」


 景昌は説明をしながら、部屋の入り口にある小さな端末を操作した。端末を数回操作をすると、人型の人形が現れた。

 その姿は出雲たちが入学試験で戦った人形と似ている点が多いように見える。


「あれって……試験に出てきた泥人形!?」

「似ているようだけど似ていない気がする?」


 出雲と愛理が口を揃えて驚いていると、竜司が違う点が多いぞと二人に言う。竜司の言葉を聞いた瑠璃は、あれは試作型でこっちは正式採用型ですよと言った。


「試験で使用したのは、ある意味在庫処理みたいな感じですね。使用した試作型に魔法騎士団の隊員が魔法を使用して、君たちの試験のあの人形を作ったんですよ」

「そうだったんですね! でも、試作型であの強さなら正式採用型はより強いんだろうなー」

「そうよね! 正式採用型なら、色々なことが出来るんじゃない!?」


 愛理が出雲の言葉を聞いて様々なことを考えていると、景昌が正式採用型は訓練用に用いているからと言う。


「正式採用型はドールと呼ばれている。このドールは様々な流派の剣術や槍術など多くの流派をインプットされている。訓練用多くの流派を融合させて新たな型を産む機械だよ」

「もしかして、このドールから戦い方を学ぶんですか?」

「そうだ。俺も色々教えるし、瑠璃も教えてくれる。」

「ここの職員は事務員であっても、最悪の時には戦闘を行えるように最低限の戦闘技術は学んでいます」


 瑠璃はそう言うと、部屋に備え付けられていた一つの武器を手に取った。

 その武器は細剣であり、その細剣の切っ先を愛理に向けた。


「瑠璃さん!? 突然何するの!?」


 愛理が驚いていると、瑠璃が訓練はもう始まっているわよと目を細めて愛理に言う。その声は先ほどまでとは違い、低い声色で薄っすらと殺気を感じるほどであった。

 

 景昌は愛理に瑠璃は本気だぞと伝えた。愛理はこれも訓練なのねと小さく呟くと、部屋の壁に立てかけてある細剣を手にする。


「私だって! 強くなるのよ! 訓練で本気出せないとまた怯えちゃうわ!」


 愛理は細剣で瑠璃の連続突きを辛うじて捌いていた。瑠璃はこの程度の速度になら対応が出来るのねと呟くと、細剣を持つ右手と何も持っていない左手を駆使して体術を交えて攻撃をし始める。

 

 景昌はその二人を見て、こっちも始めようと竜司に声をかける。景昌は大剣を2本持ち、そのうち1本を竜司に向かって投げた。


「お前は俺と訓練だ。実は俺は長剣より大剣の方が得意でな、お前は大剣を使うみたいだし、ちょうどいいな」

「俺に訓練か……今の俺はあの程度の戦闘で逃げて怪我を負う程度しかない……お前の訓練で俺は強くなる!」


 竜司は大剣を握る手に力を入れて景昌に斬りかかる。景昌は軽々と竜司の攻撃を防ぐと、右足で竜司の腹部を蹴る。


「お前の攻撃は隙だらけだ。学生の間では強いかも知れないが、外に出たら3流以下だ」

「俺が3流以下だと……俺はそんな底辺じゃない!」


 竜司が景昌を睨みながら叫ぶと、景昌は声を上げても強さは変わらないぞと言いながら竜司に斬りかかる。

 竜司は景昌の攻撃を顔を歪めながら防いでいた。


 出雲は愛理と竜司の戦いを遠目から見ているだけであった。

 竜司と戦っている景昌は、黒羽君はそこのドールで訓練をしてくれと出雲に向けて戦いながら叫ぶ。


「俺だけドールですか!? 別にいいですけど……」


 出雲が背筋を伸ばして佇んでいるドールの前に移動をすると、脳内にミサの声が不意に響いてきた。


「一人で訓練をするのかしら? それなら私が少しだけ教えてあげるわよ?」

「ミサさん!? 寝ていると思っていました」


 出雲がミサの言葉に返答をすると、ミサがドールって人形一人で訓練何て出来るわけないわよねと微笑しているようである。

 出雲はどんなことを教えてくれるのかとミサに問いかけると、出雲の目の前に薄っすらとミサの姿が見え始めた。


「ミサさんの姿が見える!? あの路地裏の時に会った以来な気がするね」

「そうね。出雲君の中に入ってからは精神世界でしか会えてなかったからね」


 ミサがクスクスと小さく笑うと、その背中に生えている綺麗な羽を数回動かしていた。その羽を見た出雲はもう治ったんですかとミサに聞くと、これは幻影よと言う。


「まだ治っていないし、羽は今にも千切れそうだわ……あ、でも出雲君が気にする必要はないわよ? 君の治癒力ももらっているから一人でいるよりは治るのが早いからね」

「なら良いけど……あ、それでどういう訓練をしてくれるの?」


 出雲が目の前に見えるミサに聞くと、ミサが右手に少女との戦闘で出現させた剣を握っていた。


「私の動きに合わせて動いてね。今から教えるのは私のいた世界の剣術の動きよ」

「わ、分かった!」


 出雲は部屋の壁に立てかけてある剣を手に取った。

 景昌は、数分間立ったまま動かなかった出雲が突然動き出した姿を見て、やっと訓練を始めたかと安堵をしていた。

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