第32話 逃げるわけには

「無事か!? 早く逃げるんだ!」

「行くわよ! 早く動きなさい! 先生が命を張っているんだから、今は逃げないと!」


 愛理が出雲の手を引いて戦闘地域から離れようとすると、逃げていいのかと出雲は考えていた。

 ここで逃げていいのか、景昌に任せっぱなしで逃げるだけでいいのかと何度も頭の中で思考を巡らせていた。


「ダメだ……ダメだ! 逃げちゃダメだ!」

「な、何をするつもりよ!」

「逃げちゃダメなんだ! ここで逃げたら一生逃げ続ける!」


 出雲は愛理の手を振りほどいて、地面に転がっている源十郎の武器である轟雷を手に取った。


「俺は逃げない! 戦ってみんなで生き残るんだ!」


 出雲は轟雷を持つ手に力を入れて、ハニエルに斬りかかる。

 ハニエルは後方に下がることで出雲の攻撃を避けると、景昌が戻ってきた出雲の姿を見て驚いていた。


「どうして戻ってきた! 逃げろと言ったろう!」

「一緒に戦います! ここで逃げたら一生逃げ続けます!」


 一生逃げ続ける。

 その言葉を聞いた景昌は、死ぬなよと前方にいるハニエルを見ながら言う。出雲も前方を向いたまま、生き残るんだと言葉を発した。


「あのハニエルとかいったか? あの男は強すぎる……もと一般人とは思えないし、姿を変えた魔法も理解が出来ない。そもそも魔法で姿を変えたのか?」


 景昌がどうやって若い男性があのような姿に変化をしたのか理解が出来ずにいたが、出雲が聖痕って言葉が鍵かもしれませんと答える。


「初めて会った時の魔法犯罪者も聖痕だとか言っていたな。あれと何か関係があるのか?」

「分かりませんけど、関係はあると思います!」


 出雲が返事をすると、二人の前の前にいるハニエルが武器に変化をさせている両腕で構え始める。


「来るぞ! 覚悟を決めるんだ!」

「はい!」


 出雲が言葉を発すると、ハニエルが一気に二人に向けて駆け出す。ボロボロの両翼は使い物にならないようで、両翼には所々に傷が見える。

 源十郎たちが傷を付けたのか分からないが、さらに使い物になっているようである。


「オマエ、タチ、ヲ、コロス」


 片言の言葉を発しているハニエルが出雲に向けて右腕を振るうと、出雲は轟雷で辛くも受け止めることが出来た。景昌は出雲が防いだ瞬間、身を屈めでハニエルの腹部を切り裂こうとする。

 だが、ハニエルは左腕で景昌の攻撃を防ぐとハニエルがそのまま右足で景昌の腹部を蹴り吹き飛ばした。


「先生! くそ!」


 出雲が轟雷でハニエルと鍔ぜり合っていると、ハニエルの背後から一人の男性が武器を手に持って攻撃をする。

 その攻撃はハニエルの背中を切り裂くことに成功をし、ハニエルは態勢を崩してしまう。


「コザカシイマネヲ……」

「俺の存在を忘れちゃ困るよ!」


 ハニエルの背中を切り裂いたのは優雅であった。

 優雅は剣で後方蹴りをしてくるハニエルの攻撃を歯を喰いしばって防ぐことが出来ていた。


「オマエタチガ、ナニヲシヨウトムダダ……オレ、ガ、コロス」


 ハニエルが両腕で再度構えを取ると、その背中から赤い血液が流れていた。

 出雲は血液は赤いんだなと考えながら優雅と共にハニエルとの戦闘を開始した。


「遅れるなよ! 危なく感じたらすぐに退くんだ! 君を守りながら戦える自信がないぞ!」

「分かってます! でもただでは逃げません!」


 出雲の目に闘志を感じた優雅が、出雲に対して良い覚悟だと微笑しながら言っていた。優雅のその言葉と共に、ハニエルが二人に突撃をしてくる。ハニエルは右腕で優雅を、左腕で出雲を攻撃する。


「二人同時にか!? 防ぐんだ! 黒羽君!」

「はい! 源十郎さんの剣! 力を貸してくれ!」


 出雲は轟雷に頼むぞと言うと、ハニエルの攻撃を上部に弾く。出雲は左にいる優雅の方向を向くと、既に右腕を弾いてハニエルの腹部に魔法を叩き込もうとしていた。


「弾けろ! 爆炎!」


 優雅は右手の掌から炎を凝縮させて、ハニエルの腹部で爆発をさせた。

 優雅の魔法はハニエルの脇腹を抉るほどの威力であり、側にいた出雲は爆発の威力によって後方に吹き飛んでしまった。


「爆風が!?」


 出雲は地面に轟雷を突き刺して態勢を整えると、前方を見る。すると、出雲の目線の先には優雅がハニエルと斬り合っている姿があった。


「優雅さん!」


 出雲は1人ではダメだと叫びながら、ハニエルに斬りかかろうとする。

 だが、出雲のその攻撃は軽くハニエルの左腕で防がれてしまう。

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