第27話 第一部隊

「気持ち悪いけど、我慢だ!」


 出雲は自身の口を押えて吐き気を抑えていると、次第に意識が朦朧とし始めていた。


「本当にこれで元に戻れるのかな? 戻れる気配がしないんだけど……」


 気持ち悪さと出雲が戦っていると、カクっと意識を唐突に失った。そして、次に意識を取り戻したときには目の前に愛理が立っていた。

 愛理は突然動かなくなった出雲を不思議に思ったのか、下から覗き込むような形で出雲の顔を見ていた。


「ちょっと大丈夫なの? さっきから様子も口調もおかしいし、終わったら病院に行く?」


 愛理に話しかけられた出雲は瞬きを何度もしながら、篁さんと愛理の名字を呼んだ。愛理は出雲が篁さんと呼んだことで、元に戻ったと確信をした。


「元に戻ったのね! さっきまでのは何だったのよ!」

「い、いや……ちょっと頭を打って、意識が混濁してただけだよ」

「それでああなるの? ちょっと不思議ねー」


 愛理が不思議ねと言いながら景昌たちを見ると、景昌と竜司が巨大化した若い男性を見てどうするか悩んでいた。


「この任務は既に下級任務の枠を超えている。本部に連絡をして指示を仰がないと、地域一帯に多大な被害が及ぶ!」

「なら早く連絡しないと!」


 竜司が景昌に詰め寄って早く連絡をしないとと言い続けていると、空から巨大な火球が巨大化した若い男性に降り注いだ。

 その火球を受けた巨大化した若い男性は痛みに耐えながら駅の方面に歩き続けている。


「あ、あれは!? もしかして魔法騎士団の第一部隊!?」


 景昌が驚いた理由は、魔法騎士団の主力部隊といわれている第一部隊がこの場に来たからである。

 第一部隊は上級のさらに上の特別な任務を実行している特別な部隊となっている。


「第一部隊がここに来たということは、あの巨大化した敵は上級以上の任務に変更されたわけだ」

「そうなのか? ならこの任務で活躍をすれば俺も!」


 竜司が言った言葉を景昌はすぐに否定をした。


「任務の中に入ったら邪魔者として殺されるぞ? 第一部隊は容赦がないからな」


 景昌が竜司に言うと、第一部隊の面々が巨大化した若い男性に攻撃を連続で浴びせていた。

 武器での攻撃や、魔法を用いた攻撃によって巨大化した若い男性は激痛に耐えきれずに片膝を地面についてしまう。その際の衝撃や揺れによって周囲の建物が崩れ、辺り一帯が阿鼻驚嘆の渦になってしまった。


「先生! 俺たちはどうしたらいいですか!」

「私たちも何かしないと!」


 出雲と愛理が景昌にどうしたらいいかと話しかけていると、巨大化した若い男性と戦っている第一部隊の部隊員が一人、景昌のもとに降りてきていた。


「景昌さん!? どうしてこんなところに!」


 景昌さんと呼んだ若い赤毛の男性は、地面に降りると景昌の前まで走った。

 若い赤毛の男性は白色と青色の配色が綺麗な鎧をに見纏っているようで、その顔は誰が見ても整っており、精悍な顔立ちをしている。


「優雅! お前いつの間に第一部隊に!?」

「今日からです! 初任務です!」


 景昌と同じ身長をしている優雅と呼ばれた若い男性が、景昌の側にいる出雲たちに挨拶をし始める。


「景昌さんの生徒さんたちかな? 俺の名前は桐生優雅だ! 景昌さんの後輩だから、よろしくな!」


 優雅が自己紹介をすると、出雲や愛理も名前を名乗った。竜司は多少距離を置きながら、名前を名乗る。


「個性豊かな生徒たちですね! あ、部隊の人が呼んでいるので行ってきます!」

「おう、行ってきな」


 景昌が手を振ると、優雅は宙に浮いて部隊の人たちに合流をした。出雲は優雅が宙に浮いた姿を見ると、どういう魔法ですかと景昌に詰め寄って聞いた。


「宙に浮く魔法なんて聞いたことがないですよ! どこで教えてもらえるんですか!?」

「いや……あの魔法は……」


 景昌が口籠っていると、愛理も聞いたことがないと言い始めた。景昌は何か諦めたように二人に言う。


「あの魔法は、第一部隊に入ったものにしか教えてもらえない特別な魔法だ。例え第一部隊を外れても誰にも教えてはならず、もし発動の仕方を漏らしたら即処刑されるぞ」


 即処刑される。

 そう聞いた出雲たちは、それほどに重要な魔法なのかと驚いていた。

 魔法騎士団で、さらに第一部隊となるとそれほどに重要な魔法を使えるようになるのかと思った出雲は、いずれ入ってみたいと考えていた。


「さ、俺たちに出来ることは避難誘導くらいだ! 行くぞ!」


 景昌の言葉に従い、出雲たちは阿鼻驚嘆の渦となっている場に向かうこととなった。巨大化した若い男性は第一部隊の人たちが攻撃をして現在いる地点で食い止めているようである。


「武器や魔法で攻撃をしているのに、決定打になっていない!? どれほど硬いんだ!?」


 竜司が攻撃を受けている巨大化した若い男性を見ていると、景昌が表皮がとてつもなく硬いようだと自身が見た限りのことを伝える。


「あの硬さは俺の攻撃でも通じるかどうか……」


 景昌が唸って考えていると、出雲が早く避難誘導をしないとと景昌に言う。その言葉を聞いた景昌はそうだったと驚いてしまった。


「あの敵のことを考えていたよ! 早く行かないと!」


 景昌がその場から駆け出すと、出雲たちも景昌を追いかける。

 巨大化した若い男性が駅の方向に向けて歩いた場所は、全ての建物が壊れてしまい、コンクリートで補装されていた地面が抉れていた。


 巨大化した若い男性は未だに第一部隊の攻撃を受けているが、時折攻撃をしているようである。出雲が走りながら横目で巨大化した若い男性を見ていると、掌から光線のようなものを出したり、口から火球を放ったりしているようである。

 巨大化した若い男性のその攻撃によって、周囲にはさらに被害が広がっていた。

 

 出雲は壊れた建物から人々が落下する様子や、瓦礫の下敷きになっている被災者の姿を見て出雲は助けないとと叫ぶ。


「勝手に動くな! 俺たちはもっと先の駅に近い場所の避難誘導だろ!」

「でも! ここにも怪我を負っている人たちが!」


 出雲がその場に立ち止まって景昌に言うと、お前はそこを担当しろと叫ぶ景昌の声が出雲に聞こえた。


「ありがとうございます!」


 そう返事をした出雲は、巨大化した若い男性の周囲に広がる破壊された建物であるビルに近づく。


「まずはこの建物か! 誰かいませんかー!? 誰かー!」


 崩れたそのビルのあった側には会社が入ってたであろう看板が地面に落ちていた。出雲は崩れたビルの瓦礫をどかして、誰かいないか探し始める。

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