第28話 救いと苦しみ

 出雲が瓦礫をどかしながら怪我をしている人がいないか探し続けていると、小さな声で助けてと出雲の耳に入ってきた。


「声が聞こえた! どこですか! どこにいるんですかー!」


 瓦礫の上を進みながらどこにいるか叫んでいると、出雲のいる場所から少し遠い場所の瓦礫から右手が出ているのを見つけた。


「いた! 大丈夫ですか! 今行きます!」


 出雲は右手が出ている場所に移動をし、その周囲の瓦礫をどかした。軽い瓦礫から重い瓦礫までどかし終えると、瓦礫の下から頭部に怪我を負っている女性が見えた。

 その女性は頭部以外にも多数怪我を負っているようで、腹部からの出血も酷いようである。出雲は女性を立たせると、肩を抱いてその場から離れようとする。


「他に生きている人を見ませんでしたか?」


 怪我を負っている女性に出雲が話しかけると、怪我を負っている女性がみんな死んじゃいましたと出雲に涙声で伝えてくる。


「みんな瓦礫に潰されたり……庇って潰された人ばかりです……たまたま私は瓦礫の隙間に埋まったから助かりました……」


 腹部の痛みに耐えつつも教えてくれた怪我を負っている女性は、何度も咳き込んでしまい口から血を吐いてしまう。


「だ、大丈夫ですか!? すぐに安全な場所に移動をしますから!」

「あ、ありがとうございます……」


 出雲は自身の服に怪我を負っている女性の血が付くも、気にせずに安全な場所を探していた。だが、一向に安全な場所が見つからず、聞こえてくるのは戦闘音だけであった。


「くそ! ここも危なくなってきた! どこに行けばいいんだ!」


 怪我を負っている女性の肩を抱きながら、巨大化した若い男性と戦っている第一部隊から離れると、複数の白色のテントが見えてきた。


「あのテントはもしかして!」


 出雲が戦闘地帯から離れて、開けた海の側の場所に移動をすると、そこには魔法騎士団の救護テントが多数設置してあった。

 出雲は小走りになって怪我を負っている女性と共にテントに向かっていく。


「助けてください! この人を助けてください!」


 出雲がテントの中に怪我を負っている女性と共に勢いよくはいると、中で仕事をしていた魔法騎士団の団員たちが驚いた表情をしていた。

 なぜなら、学生と思われる少年が頭部や腹部から血を流している女性と共に入って来たからである。


「ど、どうしたんだ!? 何があったんだ!?」


 男性騎士団員が出雲に話しかけると、出雲は巨大化したあの男性が壊したビルの瓦礫に埋まっていましたと説明をした。

 その言葉を聞いた男性騎士団員は、奥にいる女性記者に駆け寄って、すぐに治療を始めていく。


「よろしくお願いします! 俺はまだ怪我人がいないか見てきます!」

「あ、君! まだ戦闘をしているから側に行ったら怪我をするぞ!」

「大丈夫です! 俺は景昌さんの生徒ですから!」


 景昌さんの生徒。

 そう聞いた男性騎士団員は、新しく始まった例の生徒なのかと呟いていた。女性騎士団員は、呟いている男性騎士団員の肩を叩いて、治療を手伝ってと急かしていた。 出雲はテントから離れると、巨大化した若い男性の側の崩れたビルに近寄っていた。出雲は誰かいませんかと声を上げて周囲を歩いていると、目の前に一人の男性が落下してきた。


「うわ!? だ、誰ですか!?」


 出雲の目の前に落下してきた男性は、先ほど挨拶をした優雅が着ていた鎧を身に纏っていた。

 出雲の目の前に落下してきた男性は、口から大量の血を吐き出して、逃げろと目の前にいる出雲に消え入るかのような声で言った。


「逃げろって、何があったんですか!?」


 出雲は落下してきた男性の背中を持って、体を起こした。男性は尚も血を吐いていると、出雲は男性の腹部に拳と同等の大きさの穴が開いているのを見てしまった。


「俺はもうすぐ死ぬだろう……若い君はここから逃げるんだ……」


 そう出雲に言った男性はそのまま意識を失ってしまった。

 出雲は男性を抱えてテントに戻ろうとするが、意識を失った男性はとても重く、出雲一人では動かせなかった。


「逃げろって、どこに行けば……」


 周囲を見渡してどこに行けばいいんだと呟いていると、巨大な咆哮が聞こえてきた。

 

 その咆哮は第一部隊が戦っている巨大化した若い男性から発せられたようで、巨大化した若い男性が両手で自身の頭部を掴んで何やら苦しんでいるようである。


「この大きな声って、あの巨大化した人からか!? 凄い大きな叫び声だ!」


 出雲は、両手で両耳を押さえつけても聞こえてくる巨大な咆哮によって顔を歪めてしまう。

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