第24話 弱者なりの
「くっ! 痛みが……」
出雲が痛みで顔を歪ませているのを見た少女は、それぐらいで苦しんでいるのかと怒り始めていた。
「たったそれだけのかすり傷程度で……それぐらいで痛がってるんじゃないわよ! 私の痛みはそれ以上に規格外なのよ!」
「そんなこと俺に言われても分かるわけないだろ!」
出雲は力を入れて少女を押し返そうとすると、持っている長剣にヒビが入り始めた。少女はそのヒビを見ると、一気に剣に黒い魔力を浸透させながら力を一気に込める。
「商業施設の方が気になるから、一気に終わらせるわ! ここで終わりなさい!」
「そんな簡単に終われるかよ! 俺には夢があるんだ!」
「夢なんて叶うわけないわ! 人が願う夢だから、儚いのよ!」
少女は儚い夢で終わりなさいと叫びながら出雲の長剣を砕き、そのまま出雲の体を左斜めに切り裂いた。
出雲は制服の守りが消え、その体から血を吹き出しながらうつ伏せで地面に倒れてしまう。
「うぅ……剣が……体も……俺……ここで死ぬのか……」
出雲が口や体から血を流していると、少女が出雲に近寄る。
「儚い夢を持って、弱い者が粋がるがらよ。言ったでしょ? 弱い者は弱いのよ」
そう言いながら出雲の頭部を右足で軽く踏みつける。
少女は強くないから搾取されるのよと小さく呟くと、そのまま剣を構えて出雲の背中に突き刺そうとする。
「さようなら。弱い儚い夢を持つ人」
そう言って出雲の背中に剣を突き刺そうとした瞬間、出雲の体が淡い光を放ち始めた。
「急に体から光が!? 一体何が……!?」
出雲の体が淡い光を放っていると、少女は剣を構えて警戒をし始める。釣りぎを構えて出雲から距離を少女がとると、出雲の体が糸で起こされた人形のように静かに起き上がった。
その出雲はどこか先ほどまでとは雰囲気が違うようである。出雲はどこか虚ろな目をしており、体を左右に揺らしていた。
「一体何をした! お前は既に瀕死だったはず!」
少女が目の前で左右に揺らぎながら異様な雰囲気を放っている出雲を警戒し始めていると、出雲が言葉を静かに発する。
「怪我や命を共有していると言ったのに。こんな大怪我を受けて、何をしているのよ」
出雲の口調が変わり、どこか女性めいたものを少女は感じた。少女は出雲に何をしたのかと問いかけると、秘密と言いながら右手の人差し指を口に当てていた。
「秘密ですって!? 弱い者が無理をするな!」
少女が剣で出雲に斬りかかると、出雲は右手の掌に魔力を込めて少女の剣を受け止めた。少女は出雲の変わりように驚いたと共に、自身の剣を受け止めたことにも驚いているようである。
「な……なんだお前は……何をした!?」
「私は何もしてないわよ? 普通にあなたの攻撃を受け止めただけよ?」
「普通にって、さっきまでは何もできなかったくせに!」
出雲の防ぎ方を見て、少女は異質な雰囲気を感じ取っていた。
「口調も動きも何もかも違う……全くの別人みたいじゃない!」
少女の言葉を聞いた出雲は、含み笑いをしていた。
「ま、今は私がこの体を動かしているからね。出雲は今眠っていて心を癒しているし、この体が機能停止したら私も死んじゃうから、今は私が戦わないとね」
少女には聞こえない小さな声で出雲の声でミサが声を発していた。
ミサが言っていたように、今の出雲の体を動かしているのは出雲の体の中で傷を癒しているミサであり出雲が死ぬ寸前になったために、意識を失ってしまった出雲の代わりにミサが表に出てきたようである。
「この秘密は二人だけのだから、教えられないけどね」
含み笑いをしているミサに対して、少女がもう邪魔をしないでと再度言いながらミサに攻撃を仕掛ける。
「これで死んで!」
少女が剣に魔力を流し込むと刀身部分が数センチ伸び、刃の鋭さが増していた。
ミサは早く来なさいと少女に言うと、壊れてしまった長剣に変わって銀色のピンク色と銀色が栄える彩色が鮮やかな長剣を出現させた。
「まだこの長剣しか出せないのね。回復が遅いわ」
ため息を付きながらミサが少女の攻撃を軽々と防いだ。そのままミサは剣を弾くと少女の体に2連撃を浴びせた。
「くっ! この鎧を着てなかったら死んでた!」
少女が焦っていると、ミサが少女の腹部部分に蹴りを入れると鎧に亀裂が入った。
「亀裂が!? 蹴りが重すぎる!」
途端に押され始めた少女が焦っていると、それでも弱者だった男なんかにと歯を食いしばってミサに向けて魔法を放とうとする。
「この魔法で朽ち果てろ! 閻獄の炎!」
そう魔法を叫んだ少女は、右手から黒い円形の炎をミサに向けて放つ。ミサは微笑をすると、持っている剣に魔力を込めて黒い円形の炎を両断した。
「どうして!? どうしてそんなに私の邪魔をするの! 急に強くなったりして! 弱者のくせに!」
「弱者弱者とうるさいわよ? 今はあなたが弱者なの。早く消えて、家に帰りなさい」
ミサは少女に向けて弱者と言いながら、少女の腹部に剣を当てて鎧を砕いた。
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