第21話 迫る現実

「入りたいよ。魔法騎士団に入って、みんなを守れる英雄になりたいんだ」


 出雲の言葉を聞いた愛理は、魔法騎士団はそれほど煌びやかな場所ではないわよと首を横に振りながら出雲に言った。


「何か知っているの?」

「知り合いがいてね。たまに色々聞いているのよ」


 そうなのかと出雲は呟き、どんなことを知っているのと聞いた。しかし愛理はそのうち言うわよと言い、はぐらかされてしまった。

 そんなことを二人がしていると、いつの間にか目的地に到着をしたようである。


「お話し中のところ申し訳ないけど、目的地に到着したぞ」

「あ、ご、ごめんなさい」


 出雲が謝ると、竜司が遊びじゃねえんだぞと出雲と愛理を睨みつけていた。出雲はごめんと謝ると、愛理は何も言わずに降車をした。


「さて、目の前に廃棄される商業施設がある。ここの中に目標の魔法犯罪者が潜伏しているはずだ。各自気を付けて進むように」

「分かりました! それで、どうやって進むんですか?」


 出雲の質問に景昌が、固まって進むのが最適だろうと返した。しかし竜司はそれが気に入らなかったようで、トランクから大剣を取り出して一人先に行ってしまった。


「あ、こら! 待ちなさい! 一人で行くのは危険だ!」

「これぐらい俺一人でも楽勝だ。先に行かせてもらう」


 竜司はそう出雲たちに言うと商業施設の中に走ってしまう。竜司の姿が商業施設の中に消えると、景昌が深いため息をついて出雲たちに行こうと言った。


「分かりました! 竜司に早く追いつかないと!」

「そうね。これで死なれちゃ最悪だわ」

「そうだね。初担任で速攻で死者が出たら最悪だからな」


 景昌は腰に差してる長剣を手に取って歩き始めると、出雲と愛理に気を付けろと話しかける。


「深い悪意を感じる……これはもしかして下級任務の範囲ではないかもしれないな……」


 出雲はしょっぱなからかと驚きと恐怖の感情に押し潰されそうであった。愛理はそんな出雲を励まそうとするが、商業施設から鈍い金属音が聞こえたので3人は商業施設の中に駆け出した。

 

 出雲たちが入った商業施設は、衣類から食料品に生活雑貨までと幅広い商品を売っていた場所である。

 とても広いその施設内のどこに竜司がいるか分からないので、出雲は大声で竜司の名前を叫んでしまった。


 商業施設の入り口には受付カウンターがあり、1階部分には閉店している食料品売り場や、子供の遊び場、お土産屋、大衆食堂など幅広い商店が入っている。


「竜司ーどこだー! どこにいるんだー?」

「敵がどこにいるか分からないんだ! 急に大声を出すのはダメだ!」


 景昌に止められた出雲はごめんなさいと小さな声で言った。

 出雲の出した大声は竜司に届いていないようで、奥からは特に返事などは返ってこなかった。


「何も聞こえないわね。聞こえた金属音は何だったのかしら?」


 愛理が何だったのかしらと悩んでいると、再度金属音が聞こえてきた。

 それは商業施設の奥からであり、明らかに武器同士が衝突する金属音であった。


「奥からだ! 行くぞ!」

「はい!」

「分かりました!」


 景昌の言葉に出雲と愛理が返事をすると、3人で並びながら奥に駆け出した。奥の方に近づくにつれて、金属音が大きくなっていくのを3人の耳に入っていく。


 それは戦闘音と思わしき音に近づいている証拠であり、竜司が戦っているかもしれない音でもあった。

 出雲はもうすぐだと思い、長剣を握る手に力を入れると奥の方で誰かと戦っている竜司の姿が見えた。


「竜司! 今助ける!」


 出雲が走る足に力を入れて、長剣を振り上げた。すると、竜司がお前じゃ無理だと叫んだ。


「お前じゃ負ける! この敵は何かおかしい!」

「え!? 俺じゃ無理って何だよ!」


 出雲は走る足を止めずに竜司と戦っている敵を捕らえた。

 その敵とは全身の体表が白色であり、目に生気がない上半身が裸の若い男性の姿があった。その男性は両手に一本ずつ短剣を持っており、素早い攻撃を竜司に浴びせていた。


 出雲は竜司と戦っているその若い男性の戦いを見ていると、その攻撃を捌くことは俺には出来ないと思っていた。

 出雲に追いついた景昌と愛理は、戦っている竜司を見てどう援護をしようか考えていた。


「何だあの男は!? 体表が白いし、何か様子がおかしい……聞いていた姿とはまるで違うじゃないか!」

「そうなんですか!?」

「聞いていたのは若い男性で、武器等持っていなかった。ここに逃げたのは魔法を用いてコンビニ強盗をした男のはずだったのに!」


 景昌は一体何が起きているのだと言うと、その言葉を聞いた出雲が今は竜司を助けないとと叫んでいた。


「そうだな……今は竜司君を助けるのが最優先だな」

「私から行きます! あの男の足元を氷らすので、すぐに助け出してください!」


 愛理はその言葉と共に地面に右手をあてて、氷結と魔法を唱えた。

 その魔法は愛理の右手から一直線に氷の塊が伸び、若い男性の足元の地面を円形状に氷らせた。


「先生! 今です!」

「分かった!」


 愛理の言葉を聞いて、景昌は竜司と若い男性の間に入った。若い男性は足元の氷に足を取られ、転びそうになってしまう。


「これでも受けて寝てろ!」


 景昌は転びそうになっている若い男性の腹部に、右足で蹴りを入れて遠くに吹き飛ばした。


「今のうちだ! 一度態勢を整えるぞ!」


 景昌が出雲たちに入り口の方に引き返すぞと言い、ダメ押しとして火属性の魔法である火炎を発生させた。


「これでダメ押しはいいだろう!? 入り口に戻るぞ!」

「はい!」


 出雲が返事をすると愛理が隣を走る竜司を睨みつけていた。竜司は俯きながら出雲たちと歩幅を合わせて走っていた。

 入り口に到着をすると、受付カウンターに背中を預けて息を整え始めていた。その際に、景昌が竜司に話しかけているのを出雲は見ていた。


「どうして先行した? 何を考えていた?」

「俺は……」


 竜司は下を見て俯いていると、俺はと再度言う。


「俺はただ一人で倒せると思っただけだ。下級任務の敵なら俺一人で対処できると思っただけだ」

「それだけか? 力を誇示しようとしていないか?」

「俺は強くならないといけない! 誇示して何が悪い!」


 その言葉を聞いた景昌は、戦場で一人は死ぬぞと目を細めて言った。竜司は景昌の顔を見ると一瞬身体を震わせてしまった。

 その理由は、出雲や愛理でも分かるほどに殺気を放っていると見えるからである。


 出雲は景昌が本気で怒っていることを察すると、竜司に謝った方がいいと話しかけた。しかし竜司はその言葉を聞こうとはしない。


「俺が悪いのか!? 俺は強いんだ!」

「俺殺気で怯えているようじゃ、まだまだ弱い。言葉は悪いがお前は未だに雑魚だ」


 雑魚。

 その言葉を聞いた竜司は目を見開いて、俺は雑魚なのかと絶望をしている様子である。愛理は竜司を見て、少しはこれで理解したでしょうと呟いていた。


 出雲は竜司を見ていたが、先ほどの若い男性のことを考えていた。異質な雰囲気を放ち、肌が真っ白だったことも不思議であった。


「何か不思議なことが起きているのかな? あの時の聖痕としか言わない男とか……」


 出雲は眉間に皺をよせながら考えていると、分からないことを考えても分からないと肩を落としていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る