第9話 猛攻

「危ない! 下がって!」


 出雲が剣で騎士の剣を防ぐと、竜司が二人の間に入り込んで大剣を持っていない左手で騎士の胴部分に小型の火球を浴びせた。


「これでどうだ!」


 竜司の攻撃を受けた騎士は一瞬よろけるも、すぐに体勢を整えた。そしてそのまま竜司に向かって左手で持つ盾で振り払うように攻撃をした。


「ぐぁ!? その盾、金属じゃねえか! 泥から生成したのか!?」

「気を付けろ! さっきまでの泥人形たちとは格が違うぞ!」


 竜司が頭部から血を流して出雲がフォローに入っていると、愛理が二人に屈んでと声を上げて指示をした。


「危ない!? いきなり魔法を放たないで!」

「危ねぇな、おい!」


 愛理の放った氷の刃が、地面と水平に素早い速度で騎士に衝突をした。

 出雲と竜司はギリギリのところで屈むことでその愛理の魔法を避けることが出来ていた。


「見て! 篁さんの攻撃で、騎士の盾が凍ったよ!」

「今がチャンスってわけだな! 行くぞ!」


 竜司が大剣を両手で持ち、動きが鈍っている騎士に向けてチャンスだと言いながら駆け出す。出雲はその竜司の後姿を見ながら追いかけ、右手に持つ剣を握る手に力を入れる。


「俺に合わせろ! お前一人じゃ無駄なんだからよ!」

「うるさい! 俺だって強くなれるんだ!」


 出雲は無駄なんてことはないと言いながら、竜司の動きに合わせて剣を振るった。

 剣と大剣の威力によって騎士の鎧に亀裂が入ると、その亀裂を見た竜司はチャンスだと言って追撃をしようとしていた。


「これでどうだ!」


 そう言って左手に炎の槍を作成して、その槍を亀裂の隙間に入れた。


「これで終わりだ!」


 その言葉と共に竜司が炎の槍を爆発させると、騎士の鎧の隙間から炎が噴き出して鎧の内部を焼いているように出雲には見えていた。


「騎士が苦しんでいるようだぞ! このままいこ――」


 竜司が再度攻撃を仕掛けようとした瞬間、氷っている盾で竜司の頭部を殴りつけて地面に勢いよく倒した。


「がぁ!?」


 竜司は頭部から勢いよく地面に倒されてしまうと、そのまま気を失ってしまった。出雲は竜司と名前を叫ぶと、持っている剣を騎士に向けて構えた。


「よくも竜司を!」


 出雲は竜司が倒されてしまうのに、一人で戦えるのかと不安に感じていた。出雲が意を決した瞬間、氷鎚という言葉が背後から聞こえた。その声は愛理であり、私を忘れないでと出雲に言っている。


「そうだったね! ごめんよ!」


 忘れてはないさと愛理に言うと、愛理が氷鎚じゃダメージは与えられないわねとため息をついていた。

 愛理が放った氷鎚による攻撃を、騎士は氷っている盾で防いでいた。しかし、氷っている盾で防いだためにその盾が砕け散ってしまっていた。


「あまりダメージは与えられなかったけど、盾は壊せたわ! いけるわよ!」

「そうだね! このままいけば!」


 出雲はいい感じだと思いつつ、目の前にいる騎士を見据える。騎士は両手で剣を構えると、その付けている兜の隙間からの視線を出雲は感じた。

 怖いという感情が出てくるほどに、出雲はその兜の隙間から見える視線に恐怖を感じ取っていた。


「あの騎士、何かを企んでいるようだ!」

「それ本当なの?」


 出雲の言葉を聞いた愛理は、何かあるのかしらと考えていた。すると、騎士が勢いよく出雲のもとに駆けだした。


「突っ込んできた! 何か企んでいるのか!?」


 出雲剣を振るってくる騎士の攻撃を防ぐと、剣を持っている手が次第に痺れてきた。出雲は攻撃が重すぎると呟くと、愛理に助けを求めた。


「篁さん! 助けて!」

「言われなくてもしてあげるわ!」


 出雲の助けてという言葉を聞いた愛理は、氷の剣を作成して出雲と騎士が鍔ぜり合っている剣を二つとも弾いた。


「今のうちに! 早く!」


 愛理が出雲に早くと言うと、一瞬何に早くするのか理解ができなかったが出雲はすぐに剣で騎士の首筋を切り裂こうとした。


「これで倒れろ!」


 出雲のその攻撃を騎士は屈むことで回避をした。

 そしてそのまま出雲の腹部を左足で蹴ることで吹き飛ばした。


「黒羽君!」


 愛理は背後に吹き飛ぶ出雲の名前を呼ぶと、自身に迫る剣を氷の剣で受け止めた。


「攻撃が重い! でも、これぐらいなら!」


 愛理が両手で氷の剣を持つ手に力を入れると、氷の剣にヒビが入り始めていた。愛理は自身の氷の剣を見ると、魔力を流してヒビを直していく。


「魔力を使いすぎて……立ち眩みが……」


 愛理は氷の剣を作成したり、多くの魔法を放っていたことで精神的に疲労をしていたのである。


「うぅ……はっ!?」


 愛理は霞む両目で迫って来る騎士を、辛うじて捉えることが出来た。続けて氷の剣で攻撃をしようとするも、既に心身ともに限界に到達をしていたので氷の剣にヒビが無数に出来ていた。


「ヒビが!? もう限界……」


 騎士の攻撃を氷の剣で防ぐと、剣が砕けると共に愛理は吹き飛んでしまった。地面に転がる愛理は、吹き飛ばされた衝撃で全身に痛みが走ってしまう。


「ぐぅ……立ち上がれない……体中が痛いわ……」


 両手に力を入れて立ち上がろうとするも、愛理は力を入れているのに立ち上がれない。


「どうして……どうして立てないの! 今立ち上がらないと! 私は!」


 愛理のその声は誰にも届かない。悔しいと愛理が言い続けていると、地面に倒れている愛理に騎士が静かに近寄っていた。


「私はここで終わりなのね……ごめんなさい……」


 試験に落ちたと愛理が思った瞬間、自身の体の近くで金属音が聞こえた。愛理は横目で見ると、そこには出雲が騎士の剣を受けている姿が見えた。

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