第10話 残り時間と負けられない気持ち
「黒羽君!? どうして!?」
愛理は先ほどまで倒れていた出雲が、騎士の剣を受けているのが信じられなかった。出雲が受けた騎士の蹴りは、すぐに動けるレベルのダメージを受けているとは愛理から見て思えなかった。
その出雲が自身の側で騎士の剣を必死な形相で受けているのが不思議でたまらなかった。
「俺は守るために魔法騎士団に入りたいんだ! 試験だろうと、守れる人を守れなければ魔法騎士団に入れない!」
「黒羽君……」
愛理は何度か咳き込むと、痛む体に鞭を打って立ち上がった。出雲は愛理に大丈夫かと声をかけると、愛理はその言葉に平気よと足を震わせながら返した。
「まだまだいけるわ! 地面に倒れて魔力も少し戻ったしね!」
何度か咳き込みながら愛理は氷の剣を作成した。しかし愛理が作製したその氷の剣は先ほどまでとは違い、短剣といえる長さしかなかった。
「さっきより短いけど大丈夫なの!?」
「魔力が回復したといっても、この程度しかすぐには回復しないわよ!」
空元気状態の愛理を見た出雲は短期決戦しかないかと考え始め、どうすればいいのかと出雲は思考をすることにした。
竜司がいない現状で、戦えるのは自身と愛理のみ。二人で目の前の騎士をどうすればいいのか考えるも。一向に答えは出ない。
「何考えているの! 考えたって答え何て出ないわよ!」
「ご、ごめん……」
思考をしていた出雲を怒った愛理は、倒すわよと騎士を見ながら出雲に言う。
「そうだね。倒さないとな!」
出雲が剣を構えると、演習場に設置してあるスピーカーからアナウンスが流れ始めた。
「試験終了まで残り20分です。各々全力を尽くすことを祈っています」
そのアナウンスは先ほどまでと違い、威圧感を感じるような声ではなかった。むしろ頑張っている受験生を鼓舞するかのような優しさを感じる声であった。
「なんか優しい感じだったな。前のアナウンスの威圧感は何だったんだろう?」
「騎士を倒せられないから、呆れたんじゃないの? ま、良い風に捉えるのが一番かもしれないわね」
「ありがとう! その方が心が楽さ!」
出雲は力を込めて剣を握る。
愛理も氷の短剣を持つ腕に力を込める。二人は一気に駆け出すと、騎士に向けて剣を振るう。
「早く倒れてくれ!」
「もうやられはしないわ!」
騎士の胴部分を出雲が攻撃し、愛理は股関節の隙間を氷の短剣で切り裂こうとした。しかし、二人の攻撃は共に防がれてしまう。
「的確に防いだ!? リズムはあっていたのに!」
「やっぱり強すぎるわ! 設定間違えてるんじゃないの!?」
愛理が文句を言うも、騎士は動きを止めずに持っている剣で出雲と愛理の二人を攻撃する。騎士は上段に剣を構えると、出雲と愛理の腕や足を狙って剣を振るってくる。
騎士は、風切り音が鳴るほどに素早く上段から下段に連撃で剣を振るい、出雲の剣と愛理の氷の短剣にヒビが入ってしまった。
「まだだ! まだいけるよ篁さん!」
出雲が騎士の懐に飛び込んで胴部分を攻撃する。愛理は出雲の体の影から現れて、騎士の右足の鎧の隙間を切り裂くことが出来た。
「やったわ! これで動きが止まるはず!」
愛理がガッツポーズをすると、騎士が攻撃された右足で愛理の頭部に強烈な一撃を浴びせた。
「あぅ!?」
愛理は騎士の一撃を浴びてしまい、地面に勢いよく叩きつけられてしまった。出雲は篁さんと名前を叫ぶも、その声は届いていなかった。
「篁さん! くそ!」
出雲はそのまま左足で蹴りをしてくる騎士の攻撃を、後ろに下がることで避けた。息を荒くしながら出雲は、霞む目で何度も瞬きをしながら目の前にいる騎士を見逃さなかった。
「残り5分です」
出雲は息が荒いまま片膝を地面についていると、残り5分というアナウンスが耳に入った。
残り5分かと呟いた出雲は、地面に剣を差して立ち上がる。
「最後の最後まで抗ってやる!」
負けられないと言いながら、出雲は剣を構えて走り出す。
騎士はその出雲の剣に自身の剣を衝突させると、ヒビが入っている出雲の剣を破壊した。
「俺の……剣が……」
破壊された剣を破片を見ながら、出雲は絶望をした。
負けると一瞬にして察した出雲は、両目を閉じた。すると、出雲の脳裏に愛理や竜司の姿が映った。
「そうだな……ここまで一緒に戦ったんだから、簡単には負けられないんだ!」
ごめんと心の中で呟いた出雲は、姿勢を低くして駆け出す。
低い姿勢を保ったまま攻撃をしてくる騎士の剣を前転して避けると、出雲は騎士の背後に回り、自身の右手を騎士の背中に付けた。
「俺にも攻撃魔法を使えるはず……想像をするんだ……」
発動したい魔法のことを想像をした出雲は、歯を喰いしばって貫けと叫んだ。その言葉と共に出雲の右手から白色の光線が放たれた光線は、騎士の胴部分を貫いてすぐに消えてしまった。
「発動した? 俺もついに攻撃魔法を……」
出雲は魔法が発動したことを喜ぶと、そのまま魔力が切れてしまったのか地面に倒れてしまった。
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