第7話 迫る恐怖

「私のことは篁でも、愛理でもどちらでもいいわよ」


 どっちでもいい。そう言われた出雲は目に力を入れて考えこんでしまう。その姿を見た愛理は、今考えなくていいわよと出雲の右肩を軽く叩いた。


「名前を教えるのか? 俺の名前は神道竜司だ。覚えなくてもいいぞ」

「あ、俺の名前は」

「さっき聞いたから言わなくていいぞ。もう会わないかもしれないからな」


 そう言われた出雲は、会った時に絶対自己紹介をしてやると心に決めた。そんなことを出雲が考えていると、愛理がこれからどうするのよと出雲に話しかける。


「で、これからどうするの? 作戦でもあるの?」

「い、いや……何も考えてなかった……」

「はぁ!? 何か考えてから動けや!」


 竜司に怒られてしまった出雲はその場で肩を落としてしまう。

 どうせ勢いだけだよと呟いていると、動きが止まっている泥人形が小刻みに左右に動き始めた。


「な、何だあの動き!?」

「気持ち悪い動きをし始めてる……」

「何かしてきそうだ! 気を付けよう!」


 出雲たちが見ている泥人形たちは小刻みに揺れ動いていると、次第にその姿を変えていく。泥人形はその全体に付着している泥が地面に落ち、その真の姿が現れた。

 泥人形の変化したその姿は、両腕が刀の刀身が付いており、頭部と思われる場所には目や口などがなかった。全身が肌色をして顔にあるはずの目や鼻に口の部分がない、いわゆるのっぺらぼうのような姿をしていた。


「なんだあの姿!? 両腕に刀が付いてるぞ!」

「泥が落ちて、動きも早くなってそうだ……」


 出雲と竜司が驚いているが、愛理は面白そうねと笑っている。出雲は愛理のその顔を見て、よく笑えるなと思っていた。


「面白いじゃない! これこそ国立中央魔法学校の魔法実技試験よ!」


 愛理はそう叫びながら、出雲と竜司に行くわよと言った。出雲と竜司はその愛理の言葉を聞くと、お互いに目を合わせて先に走っている愛理の後を追いかけた。


「お前はしょうもない魔法しか使えないんだから、邪魔をするなよ!」

「しょうもなくないわ! ちゃんと支援ができるちゃんとした魔法だ!」


 出雲はしょうもないと言われてイラッとするも、今は協力をする必要があるので気持ちを抑えることにした。


「篁さんが先に攻撃を始めている! 俺たちもやろう!」

「言われなくても分かってるわ! いちいち指図をするな!」


 竜司は話しかけてきた出雲にうるさいというと、炎の球体を再度作って変化した泥人形に放った。


「おい! 合わせろ篁!」

「呼び捨てにしないで!」


 愛理と竜司は氷と炎の剣を投げつけて、一気に変化した泥人形の数を減らした。

 出雲はその様子を見ていると、一体の変化した泥人形が槍を持って震えている1人の女子受験生に襲い掛かろうとしていた。


「あ、危ない!」


 1人の女子受験生に変化した泥人形が襲い掛かろうとしている姿が見えた。出雲はその女子受験生のもとに駆けよると、ギリギリで目の前に立つことが出来た。


「襲わせない! 助けるんだ!」


 そう言いながら、出雲は持っている剣で変化した泥人形の攻撃を防ぐことが出来た。剣で攻撃を防いでいると、出雲は目の前に迫る刀の恐怖で足が震えていた。


「怖い怖い怖い! 目の前に刀が……!」


 剣で防げたはいいが、これからどうすればいいのか出雲は呟く。

 背後で蹲っている女子受験生を守るためにはどうしたらいいのかと悩んでいると、これしかないと意を決する。


「俺に今使える魔法はこれだけだけど、これでも守れる力になるんだ!」


 負けられない、守るんだと出雲は叫ぶと、剣から左手を放して目の前にいる変化した泥人形に向けた。


「目潰しだ!」


 出雲の言葉と共に、左手から眩い輝きを放った。しかしその出雲の攻撃は変化した泥人形には効果がないようである。


「しまった! この人形、目がないじゃん!」


 やっちまったと言う出雲だが、それが効果ないならこれだと目の前にいる変化した泥人形の腹部を蹴り飛ばし、その体を斜めに切り裂いた。


「これでどうだ! 俺だって守れるんだ!」


 笑って言う出雲は、目の前で崩れていく変化した泥人形を見ていた。そして、自身の背後にいた女子受験生に手を伸ばした。


「大丈夫? 立てるかな?」

「う、うん……ありがとう……」


 出雲の手を取って立ち上がった女子受験生は、出雲に感謝をするとそのまま後方に避難をした。


「一緒に戦ってはくれないのか……一緒に戦った方が勝率は上がるのに……」


 出雲は試験だけど怪我をする危険性はあるけどと呟き、それでもここは戦った方が合格率は高いのではと思っていた。


「わざわざ落ちるような動きをしなくても……」


 そう逃げて行く女子受験生を見て言うと、どこからかこっちは任せてくれという男子受験生の声が聞こえてきた。

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