第6話 魔法実技試験

「な、なんだあの泥人形!? こっちに来るぞ!」

「襲ってくるの!? 早く逃げなきゃ!」


 一部の受験生たちは、突如襲ってきている泥人形を見て恐怖を感じているようである。出雲もその一人であり、プレハブが吹き飛んだのと速度は遅いが敵対心を放ってきている泥人形に恐怖を感じていた。


「逃げるやつは逃げればいい。合格枠の一つは俺がもらう」


 一人の黒髪で短髪の男子受験生が、右手から炎の球体を泥人形に飛ばしながら立ち向かっていた。その男子受験生に続いて、茶色の肩にかかる長さをしている女子受験生も氷の魔法で剣を作って魔法を放ちながら戦い始めている様子が出雲の目に入る。


「戦ってる……そうだよな……俺は魔法で人を救うためにここにいる。こんなことで恐怖を感じてたら誰も守れない!」


 戦うんだと出雲は叫んで、勢いよく泥人形に向かって駆け出した。

 すると、二人の受験生と戦っている泥人形の動きが徐々に早くなり始めていた。


「泥人形の動きが早くなった!?」


 出雲はその泥人形の動きに驚くも、立ち向かうんだと叫びながら右手から眩い光を泥人形に当てた。


「今のうちに態勢を整えて!」

「邪魔しやがって! 戦いの邪魔をするな!」

「いえ、良い援護よ! 今のうちに態勢を整えないとダメよ!」


 女子受験生の声を聞いた男子受験生は舌打ちをして、その言葉に従った。出雲も泥人形の側から離れて、男子と女子受験生の横に移動をした。


「それで? これからどうするんだ?」


 男子受験生が女子受験生に対して、前方の泥人形を見ながら指示を仰いだ。出雲はその男子受験生を見て、そんな言い方をしなくてもと思っていた。


「連携して戦うしかないわ。あの泥人形の集団を倒すには協力して戦うしかないわ。あなたは嫌だろうけど、今は仕方ないわよ」

「試験に合格しなくちゃいけないからな。付き合ってやるよ」

「俺も一緒に戦うよ!」


 出雲を含めた3人は泥人形を見据えると、男子受験生が炎の槍を作ってそれを泥人形の集団に投げつけた。その炎の槍は地面に刺さると勢いよく爆発をした。

 女子受験生はその隙を見逃さずに、地面から氷を発生させて多数の泥人形の足を凍らせた。


「5体止められなかったわ!」


 女子受験生が出雲と男子受験生に叫ぶと、出雲が目くらましだと叫びながら5体の泥人形に向けて魔法を放つ。


「俺の魔法じゃ目くらましにかならない! 攻撃をしてくれ!」

「よくそんな魔法しか使えないのに、国立中央魔法学校を受験したもんだ!」


 出雲はうるさいと言い返すと、男子受験生が鼻で笑い返した。その二人を見ていた女子受験生は、喧嘩は後でしてと怒っていた。


「その5体を凍らせるから、まとめて!」


 女子受験生の声を聞いた男子受験生は炎を凝縮させてサッカーボールほどの大きさの火球を作った。


「吹き飛ばせばまとまるだろ!」


 そう言って、男子受験生は放った火球の爆発によって5体の泥人形を吹き飛ばした。その5体の泥人形は女子受験生が足を凍らせた泥人形の場所に吹き飛んでいた。


「チャンスよ! 一気に倒さないと!」


 女子受験生がそう出雲たちに言った瞬間、後方の方から悲鳴が聞こえた。


「な、なんだあれ!?」

「どういうことだあれは!」


 出雲と男子受験生が見た光景は、逃げていた受験生たちの方向からも泥人形が現れて攻撃をしようとしていたからであった。


「俺が行く! 俺が助けに行く!」


 出雲は誰かが行かないとと考えた結果、自身が助けると二人に言った。その言葉を聞いた女子受験生は無理しないでよねと泥人形を見ながら出雲に言った。

 また、女子受験生とは逆に男子受験生は舌打ちをして勝手にしてろと出雲を見ずに言う。


「みんなで合格しよう! 行ってくる!」


 出雲が笑顔で二人に言いながら走り始める。出雲は走りながら、どうやって倒せばいいのかと考えていた。


「この試験がどこを見ているのか分からないけど、泥人形と戦うことは分かる。今は目の前にいることに集中をするか」


 泥人形は誰が作っているのか、誰が出しているのかと考えていた。怪我をするかもしれないこの試験において、受験生のどの適正を見ているのか出雲は不思議だと考えている。


「俺に適正があるかは分からないけど、今は俺のできることをするまでだ!」


 出雲は道中、地面に倒れて竦んでいる男子受験生を助けると、動ける人を集めて泥人形に対処をしようと言った。


「そ、そんなことをしたら怪我をするじゃないか! 僕は嫌だ!」

「あ、ちょっと!」


 出雲が話しかけた男子受験生は死にたくないと叫ぶと、どこかに走ってしまった。

 出雲は待ってと叫ぶが、その声は届いていないようであった。


「どうして逃げるんだ! 待ってよ!」


 どうして逃げるのか。どうして目の前に泥人形が迫ってきているのに自分一人だけでなぜ逃げてしまうのかと出雲は考えていた。


「俺は絶対に逃げない!」


 逃げるわけにはいかないと叫んだ出雲は、そのまま泥人形に立ち向かっていく。


「俺が魔法で攻撃をするから、そのうちに態勢を整えて!」


 出雲は蹲っている受験生や泣いている受験生に声をかけた。しかし、怖いと言っていたりもう嫌だと言っている受験生ばかりであった。


「怖がらないで! 泥人形に立ち向かわないと、ここまでやってきた意味がないよ!」


 出雲は何のためにここまで来たのかと怯えている受験生たちに言う。その声を聞いて、受験生たちは次第に何のためにと呟きながら立ち上がり始める。


「こっちに武器庫があったぞ! これを使ってくれ!」

「ありがとう!」


 出雲は投げ渡された剣を手に取って、その剣を泥人形に向けて構えた。武器庫を見つけた男子受験生は様々な武器を受験生に配り始めた。


「この武器でみんなで戦おう! あの男のいったように、ここまで来たんだから逃げずに戦うんだ!」


 出雲にも武器庫を見つけた男子受験生の言葉が聞こえており、士気が上がってきたと高揚していた。すると、空中から氷の剣が降ってきて泥人形の歩いている地面を凍らせた。


「遅いからこっちに加勢に来たわよ。いつまでやってるのよ」

「威勢よく行った割に、全く倒してねえじゃねえか。ダセェぞ!」


 先ほどまで出雲と戦っていた二人が加勢に来てくれたようであった。

 女子受験生は再度氷の剣を作ると、出雲の左隣に立って構えた。


「そう言えば私の名前を教えてなかったわね。名前が分からないと呼びにくいでしょ?」

「確かに呼びにくい場面はあったね」


 出雲は男子受験生や女子受験生と呼んでいたりして、どう呼んでいいか悩んでいた。なので名前を教えてくれるとあって、出雲は安堵をしていた。


「私の名前は篁愛理よ。よろしくね」

「俺は黒羽出雲だよ。こちらこそよろしく!」


 出雲は自身の名前を教えると、苗字か名前かどちらで呼べばいいんだろうと考えた。

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