夢日記

憂ね

不老不死薬

学者の右腕である私は、彼の研究発表のため、鉱山奥に都市伝説として存在していると言われる、舐めれば不老不死になるという岩石を探しに行く。場所は学者の関係者しか知らないらしい。初めて秘密裏に集まった9人は、名前も素性も知らなかった。

道は壮絶で、山に入ってから2週間後、出て来れたのは6人。私は1週間後、研究発表の審査会場へ向かった。学者に“例の物”を手渡す。岩石から薬を作れれば、富豪は喉から手が出るほど欲しがるだろう。学者の研究発表には莫大な資金がかけられており、そのプレッシャーからか、学者の顔は引きつっている。ついに学者の発表の時間だ、彼は覚悟を決めたかのようにゆっくりと口を開いた。「私は不老不死の薬について、今は世間に出す必要はないと考えました。」会場からは一斉にブーイングがおこる。わざわざ発表のために全国各地から著名な学者が訪れている。いきなり発表が中止になれば怒るのも当然だろう。しかし、発表してしまえば世の医学の常識がひっくり返ってしまう、そう考えたのだろうか、学者は続けて言う。

「この責任は身をもって償います。」

世に出さずとも自分の身をもって薬の効果を証明するつもりだな、と私は1人納得した。ポケットの中の不老不死の重みを感じる学者は、どこか満足そうだった。




あの時一緒に鉱山に入った9人には奇妙な絆が芽生え、それぞれ研究発表の中止、私益、鉱石の密売など様々な思惑の上で鉱山に来ていたことを明かした。無事に出て来れた6人は研究発表の日、もう一度集まると各々岩石を交換し合った。2週間も山に籠ったので、さまざまな岩石が取れたのだ。二度と会うこともないだろうが、思い出がわりになるならと私も6人に小さな岩石を渡した。誰かが愚痴る。不老不死の岩石なんて逆にあると思ってるのかよ、偉い人たちもアホばっかりだな、その意見にみんな頷く。学者の暗殺で揉めた1人も、今はもう仲良しだ。




その日の夜の臨時ニュースによると、ある有名な学者と、男女5人が毒物摂取により死んだそうだ。不老不死の岩石なんてあるわけがないと笑ってたあいつも、好奇心には勝てなかったのだろう。どうやら交換した岩石を舐めたようだ。毒が塗られた岩を自分で舐めるなんて、アホはお前らだよ。




私は今、鉱山で1度"死んだ"助手たちの帰りを待っている。不老不死薬を作れる岩石は確かに存在する、いや、した。60年前にあの山奥で遭難し、藁にも縋る思いで周りにあった石を口にしていた私は、偶然にも不老不死の岩石を見つけてしまった。そして50年の月日を得て、薬の調合に成功した。事前に投与したあの3人のデータが取れれば、遂に不死の証明がなされ、私の研究は成功だ。

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