猫又焼酎

 昨年の忘年会に竹道くんから聞いた話である。

 竹道くんは、左京区の国際会館に、両親と大学生の4人で住んでいる、マッシュヘアの似合うイケメンである。  

 竹道くんが酒を飲めるようになったのは、ここ数年で最近の若い人らしく、ビールは飲まず、缶チューハイなどを軽く飲む程度で、飲み会では大抵、ビールグラスは持っているが、ビールは口につけるくらいでレモンチューハイをちびちび飲んでいた。

 竹道くんは普段はあまり喋らないのだが、アルコールがはいった時は饒舌になる。

 わたしも竹道くんと同様にビールはあまり好きではなく、チューハイを飲んでいて、どんな酒がうまいかを話していた。もちろん、ふたりともビールは好きではないのでチューハイの話しをして、カクテル、ハイボールへと話しが進み、焼酎の話となった。

 わたしが鍛高譚は、紫蘇の風味がするのでまだ飲みやすいと話すと、竹道くんが父親の話しを始めた。


 うちの父は、夏はビールを飲むんですが、冬は決まって焼酎を飲むんです。

 父は焼酎は昔は安いむぎ焼酎を熱燗にして飲んでいたんです。ある日、三条にある猫の名前のついている居酒屋に同僚と仕事帰りに行ったらしいんです。その店は、なんでもビルの屋上にある店らしくトマトのおでんが売りらしいんです。トマトの嫌いな父は、もちろんトマトのおでんなんて嫌だから、他のおでんと酒を頼んだらしいです。

 そこで勧められたのが、猫又焼酎という米焼酎らしいです。ええ、僕もそれまで米といえば日本酒だと思ってたので米の焼酎があるなんて初めて知りました。それで、父は猫又焼酎を飲んでみたら、喉が焼けるような喉越しのあと、しばらくすると、クワッとくる感じがあって、ついつい、にゃーんとさけんでしまったらしいです。

 いい歳したおっさんが、にゃーんって言うと思いますか?

それが本当に言うんです。ホントですって。

 実は、父はそれから猫又焼酎にはまってしまって、鳥取県の米子にある蔵元まで行くんです。いくらなんでもはまり過ぎでしょ。蔵元のある米子は漫画家の水木しげるの出身地で、蔵元も鬼太郎ロードにあるんです。僕も小学生の時、家族旅行で何度か行ったんですから。

 父は蔵元でも猫又焼酎を買いますし、京都の酒屋でも買ってきては冬は猫又焼酎を飲んでいます。蔵元では日本酒も売っていますし、猫又梅酒なんてのもあるんですが、父いわく、猫又焼酎に勝るものなし。なんだそうです。 

 父は家で晩酌で、猫又焼酎をチビリと飲んでは、にゃーん、チビリと飲んでは、にゃーんと言って、そのまま居間で朝まで寝込んでしまうことが度々ありました。


 それで、去年の11月のことなんですけど、父が晩酌で、猫又焼酎を飲んでいたんです。案の定、居間のこたつで丸まって寝込んでしまいました。この時、父はなんとも嬉しそうな、幸せそうな顔をして寝てたんですよねえ。

 僕は次の日、早かったんで、10時すぎには2階の自分の部屋に行って、ベッドに入りました。

 はい、ええ、僕こう見えて早寝早起きなんですよ。

 この日、僕は夜中にトイレに行きたくなってしまって。それで1階のトイレに行ったんですよ。

 居間はトイレの横にあるんです。僕がトイレに入って居間の父がまだ寝てるのか、ふと、気になって、居間のこたつを見てみました。

 父はこたつの横にいました。いましたというのは、寝てはなかったんですよ。なんかね、四つん這いになってたんです。それでね、父はにゃーんと叫んだかと思うと、四つん這いのまま、しゃかしゃかと階段を上がって両親の寝室に入っちゃったんです。


 次の日、父に昨日のことを覚えてるか聞いてみたけど、全然覚えてないって言い張るんですよ。 


 猫又って、しっぼがたくさんある化け猫で、ひとを化かすらしいです。うちの父も化かされたんでしょうね。


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京都左京区あやかし猫ばなし フジセ リツ @sfz

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