トゥ・レイト・ショウズ

「テメエ、遂にやりやがったな」

 崩落するビルを目の当たりにし、辛うじてその言葉だけが零れた。

「これまで堪えたのを褒めてほしいぐらいだが」

 余裕の顔で虚空を見つめる男の胸倉を掴む。怒りが先走って、壁へと吹き飛ばす。男の後頭部がコンクリートを叩く。後頭部を摩る男は尚も不敵に笑う。

「何がおかしい」

「何もおかしくはない。君の不幸はつまり僕の幸福であるのだから」

 噛み合っているようで、全くそうではない会話。

「僕は最大限に君が尽力する時間を与えた。それでもこの数百の命は救えなかった」

「黙れ」

「最高の幕切れで、最高の喜劇さ。英雄は名折れ、翼を失い地に堕ちた。人は死に絶え、何も知らずに地獄へ落ちる」

「黙れ、黙れ」

「僕は何も間違ったことを言っていない。所詮は君も、ただの人だった。ヒーローにしては頭も回らない。だから君が出来るのは、精々僕を殺すことだけ」

「うるせえ、テメエだけは絶対に赦さない。此処で殺す。この冷てえコンクリートの上がテメエの墓標だ。お前を殺せばオレの勝ちだ」

「合わせて千が死んだ」

「千で済んだ」

「お目出度い思考回路だ」

「言ってろ雑魚が」

 拳銃を取り出す。向ける。男は顔色を変えない。

「遺言ぐらいは聞いてやる」

「残す爆弾はあと一つ」

 空いた手で髪を掴む。

「何処にある」

「今から一時間後に爆発する」

「何処だ、何処にある!?」

「言うわけがないだろう。

 君のふためく顔を想像するだけで堪らない」

「テメエほんっと死ぬほど嫌いだわ」

 グリップで殴った後発砲した。深夜のトンネルに銃声が谺する。怒りが収まらないのでもう一発蹴りを入れ、現場を後にした。夜の十一時一分。故人の仕掛けた深夜上映、もう一幕目の幕が開けた。

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