色恋沙汰の外、思案のみが走る午後

 砂糖を入れた。

 甘くなりすぎた。

 取り返そうと躍起になった。

 納得する頃には溢れんばかりになっていた。

 全部は作れないが、半分は型に流し込んだ。

 もう半分は、一週間かけて胃袋に収める予定である。


 なんでこんな多くなってしまったのだろうか。

 考えながら居間の机で一人、甘味を補給している。

 先週、義理だ友だと大騒ぎしていた友人に乗った。

 結果、勢い余って作りすぎた。

 詰まるところそれだけの話である。

 別にこの中に本命があるわけじゃない。

 そういえば恋ってなんだろう、と考える。

 よく分からない。

 まだ私は恋を知らない。

 純粋と言えば聞こえは良いだろう。

 でもまあ、ただ未熟なだけである。

 そういえば隣の席のあいつは皆の的らしい。

 かっこいいとは思うけれど、入れ込む程じゃない。


 思うに、恋は切っ掛けだ。

 恋はするもので、愛はあるもの。

 愛の形は様々である。

 けれど、情事に繋がる愛情は、凡そ恋でのみ成立する。

 と、本で読んだ。

 そういえば愛ってなんだろう。

 古今東西の思想家が考えてきた命題。

 なんなのだろう。

 両親から受けた愛情。

 暖かいものだった。

 人を人として育てる何か。

 叱責は過ちを繰り返させぬためのもの。

 それは経験から導かれる言葉。

 愛情を注ぐには知が必要だ。

 知識ではなく、見聞。

 その見聞の善し悪しを測る物差し。

 結局愛情とは、自分を分け与えることなのだろう。

 そう思った。

 色々混ぜ込んだ人生を、誰かに渡す。

 そういう意味では、この慣わしも間違っていないのでは?

 目の前の皿に積まれた洋菓子を見て、そう思った。

 市販品やら調味料やらを混ぜ込んだもの。

 なんとなく、人生のようなものに思えなくもない。

 だから浸透したのだろうか。

 まあ、そんなことはきっとない。

 あと、たぶん始めた人にもそんな意図は全く無いだろう。


 


 とりあえず今は。

 とにかく、この黒くて甘い菓子の処遇を考えなければならない。

 ……しかし……、作りすぎたなぁ……。

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