第3話武器を持てないハンター
捕獲され、試験用として飼育されてたのか。
運命の悪戯なのかもしれない。
でも、これで本当の借りを返すことが出来る。
「俺の事なんて覚えていねぇよな!!」
俺は不気味な声で甲高く笑う。
高ぶる感情が抑えられなかった。
周囲は鬼亀を前にして頭でもおかしくなったのかと蔑んだ目でガルダに視線を集める。
「大丈夫か?恐怖でおかしくなったんじゃないのかアイツ…」
「アイツって調合屋の息子じゃね?」
「あの異世界から来たとか言ってた奴?」
誰一人、俺が勝つなんて思ってもいないだろう。
まさに最高のシチュエーション。
あの時の鬼亀に借りを返し、周囲を見返す武勇伝の始まりとしようじゃねぇか。
俺は激しく高揚し叫んだ。
「ここに居る全員!!ちゃんと見とけよ!!」
覚悟決め、腰に付けていた支給品袋を手に取る。
この中身には砥石を細かく粉末状にした物、ライポイル草の絞り汁が入っている。
砥石はほぼ鉄分で出来ている石。
ライポイル草は主にモンスターを牽制する為に使用されているが、絞り汁は可燃性の液体。そして、その液体は徐々蒸発し、有毒な可燃性のガスとなる。
つまり、この袋には既にライポイル草の絞り汁は蒸発し可燃性のガスとなり、充満していて、これに着火すると、ガスに引火し爆発を起こす。そして、砥石の鉄粉に次々引火し粉塵爆発を引き起こす。
誰もこれが爆弾とは思わないだろうな。
半分残していた砥石を取り出し、しゃがみ込み背中を丸め、風が通らない場所を作る。
そこに支給品袋を縛ったロープの先を置き、剥ぎ取り用ナイフで素早く擦り付け、火花を縄先の乱れた部分に飛ばす。
上手く火花はロープに引火し、徐々に燃えていく。
火が付いた事を確認し、火が消えて終わぬ様、ゆっくりと鬼亀に近付いていく。
鬼亀も俺を喰おうと口を大きく開けながら近づいてくる。
火が支給品袋まで達する瞬間、鬼亀の口の中へ目掛けて、右腕を大きく振りかぶり、放り投げる。
「これでも喰ってろ!」
投げ込まれた支給品袋が鬼亀の舌の上に乗る直前、縄の火は支給品袋に引火。
『ボガァァァァンッッ!!!』
ガルダの顔すれすれを爆発の衝撃で吹き飛んだ牙が擦めた。
爆発の煙の中で鬼亀は天を仰ぎ、白目を剥き硬直していた。
透かさず、煙の中へ飛び込み鬼亀の口の中に上半身を突っ込む。
「外は防げても内側なら防げねぇよな!!」
「舌元から手前20cm!! 中心から2cm右!! 斜め45°上!! ここに脳管があるんだよな!!」
手持ちの剥ぎ取り用ナイフで的確にその場所を突き刺す。
『ブシャァァァァ…』
先程まで血管を流動していた、鮮やかな赤い液体が噴き出し、噴水の様に口の中から乱れ散る。
鬼亀は徐々に足元から崩れ落ちていった。
その光景に周囲は感激するのではなく、動揺していた。
武器持たない試験者ハンターが、支給品アイテムのみで鬼亀を倒した事に——
決して、すごいと称賛できるものでは無い。
武器を使えば、安全に確実に素早く討伐する事ができる。
しかしガルダが支給品アイテムのみで討伐出来たのもまた事実で有り、ハンター試験のルールとしては認めざる負えなかった…
近い未来…
武器を持てない駆け出しハンターが数々の偉業を成し遂げるとは。
この時はまだ誰も思わなかった——
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