第2話 因縁のモンスター

 ガルダの衝撃的な発言によって、試験会場は笑いの渦に包まれた。

 試験官ですら、堪えきれず少し吹き出している。


「ぶッ……ガルダ殿……本気か?」


 まぁそりゃそうだろう。

 凶暴なモンスター達を狩るためにハンターとなる者が "武器が重たくて持てません" と真面目な顔して言うのだから。


 「マジです」


 「ぷぷっ……。武器を使用せずにどうやって討伐するのだ?」


 「ハンターに成るのに武器が無いとダメって事は無いですよね?」


 「確かにそんな決まりないが……。ぷぷっ。素手で倒すのか……。ぷぷっ」


 コイツ…マジでもっとマシに笑い堪える事ができねぇのかっ!

 さすがに少し腹が立って来た……。


 二階からもクスクスと笑う声が聞こえる。


 親父……。


 親父が昔、言っていた言葉が脳裏に浮かぶ。

 『俺の出番来た、そんな時だ! 試験官は俺に使用武器を聞いて来てな! もちろん武器を持てない俺は重たくて持てないんです。と言った。そしたら盛大に爆笑しやがって、思わずカチンと来て、ブン殴ってやったんだ! はははっはっはぁ!』


 まさに俺も全く同じ状況になっています。


 だけど、俺はバカにされ続けて来た親父みたいには成りたくない。


 親父はその時、試験官をブン殴り、永久にハンター資格を剥奪され、今も街の調合師として働いているが、俺は親父や俺達を[男なのに武器を持てない貧弱者]、[異世界人とか訳の分からない事を言う頭のおかしい父親]だとか、ずっとバカにしてきた奴らを絶対に見返してやらないと気が済まない。


 だから絶対に試験突破してやる。

 その為の知識は学んできたんだ。


 「武器が無くても大丈夫ですので。早く開始してください」


 「ククッ……。まぁよい……。制限時間は30分だぞ? 1秒でも過ぎたら失格だからな? ププッ」


 試験官は制限時間30分以内に鬼亀を倒せないと確信しているのか、念を押してくる。


 俺が頷くと、試験管は笛に息を吹き込む。

 笛の甲高い音の後に試験場の奥の鉄格子が開き、暗闇から鬼亀が出てくる。


 小さい頃……。

 親父が武器を持てないから、もしもの時に守ってやる事ができないからって1度も隣街まで連れて行ってもらう事が出来なかった。

 だから、近所の子供は隣街まで連れて行ってもらっているのが羨ましくて、親父に黙って街外に出たんだっけな。

 しかし運悪く、街外の近くの湖に住んでいる鬼亀に遭遇して、俺は初めて見る肉食獣に恐怖で身体が動かなくなり、喰われそうになった。

 それまでは何でも、一人で出来ると思っていたが……。俺は泣き叫び、自分の無力さを初めて知ったんだよな。


 そして……。


 もう喰われると思った。その時、親父が助けに来てくれて、剥ぎ取り用ナイフで鬼亀の左目に突き刺し、追い払ってくれた。


 いつもバカにされても、へらへら笑っている親父が大嫌いだったけど……。

 あの時は、めちゃくちゃカッコ良かった。

 俺を助けようと鬼亀に立ち向かう親父の背中は一流のハンターの様だった。


 あの日から親父は俺のヒーローだ。


 そんな親父をバカにする奴を見返したくて、俺はハンターに成る事を決め、ここに来た。


 あの時の俺とは違う。

 親父の知恵と調合技術を盗み、極めてきた。

 例え武器を持てなくても剥ぎ取り用ナイフは持てる。


 「あの時と違う個体だろうがっ!あの時の借りを返せさてもらうぜ!!」


 『グァァァッガァァァァ!!』

 武器を持っていないガルムを見て、勝利を確信したのか、鬼亀は雄叫びを上げる。


 「お前までも……。バカにしてんのかっ!」


 その時——

 鬼亀と目が合う。


 よく見ると、鬼亀の左の目元に小さな傷がある。小さい刃物で斬られた跡だ。


 俺は激しく高揚し、鳥肌が立った。


 「おいおい……。何て運命の巡り合わせだよ!!」


 子供の時、襲われた鬼亀じゃねぇか……。

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