異世界人の父は筋力がありません。勿論、息子の俺も筋力が無く武器を持てません。武器を持てないハンターの成り上がり。

やんま。゚(゚´Д`゚)゚。

第1話 試験


 「これより第98回ハンター登録試験を行う。ルールは事前に配っている紙に書いてある通りだ!!」


 試験官の前方に立つ5人は同時に1枚の紙を広げた。


 ○ハンター登録試験○

1.鬼亀オーガタートルを30分以内に討伐、又は捕獲すること。

2.武器はギルドに申請登録した品のみ使用可。

3.アイテムは支給品のみ使用可。

 ○試験準番○

1.グリッシャー・ラルク

2.フォーリアル・エマ

3.ランソエド・シリス

4.アルゾ・キース

5.タカハシ・ガルダ


 「紙に書いてある通り、今期の試験は5人。 順番に行なっていく。それでは10分後開始する。それまで、待機! 以上!」


 俺は1番最後のようだ。


 説明が終わると同時に試験場の二階からガヤガヤと人の話し声が聞こえて来た。目をやると大勢の大衆が試験場の2階にある観客席を端から端まで人が埋め尽くしている。

 先輩ハンターの方々が己のギルドに有能な人材ならスカウトしようと見に来ているのだ。


 俺は予想以上の多さに緊張していると、一人の試験者が俺達に声を掛けてきた。


 「よぉ、今日はお互い頑張ろうぜ」


 コイツはたしかラルクだ。


 高身長に短髪の爽やかイケメン、身体は試験用の鉄鎧を着ていても、相当鍛えられた筋肉質だと分かる位、腕が太い。そして背中にバカでかい鉄の大剣を背負っている、見るからに大剣使いなのだろう。


 「はいっ! 頑張りましょう! 上で先輩方も見ていますし!!」


 元気良く答えたのはシリス。

 150cm位の低身長のポニーテールに童顔だが有りより有りだ。豊胸で鉄鎧が身体に合っていないのか、少し窮屈そうに見える。

 腰には短剣を左右に付けているから双剣使いだろう。

 短剣っていっても、其れなりに重量は有り、片方だけでも10Kgある。それを両手に女が軽々振れるのだから、この世界の人間は本当に筋力バランスがおかしい…


 「俺はお前達と馴れ合うつもりはない」


 シリスの後に冷たい言葉で返す、キース。

 180cm近く有る身長に茶色の長髪、吊り上がった目をしている。

 同じく鉄鎧を着ていて、背中には二本の鉄斧を背負っている。斧使いでは珍しい二刀流だ。


 「………」


 ラルクの言葉に一切反応する事もなく、一人だけ黙々と弓の手入れをしている女、エマ。

 160cm位の身長に、カールのかかったツインテール。人形の様に整った顔をしている。いい育ちなのか、駆け出しハンターなのに支給される鉄弓ではなく、モンスターの素材で造られた弓を持っている。

 噂で聞いた事ある、何処だかの貴族の娘らしい。


 俺ものんびり楽しくお喋りしている暇は無かった。早く準備しないと10分しか無いんだから。

 「あぁ」と返事だけ一応返し、そそくさと離れ、支給品が置いてある棚へ移動を急ぐ。


 「何してるんだろ?」

 「さぁ? 鬼亀に支給品使うまでも無いだろ…」


 そんな俺を見て、後ろからはラルクとシリスが話している声が聞こえてくるが、とにかく時間がない為、反応せずに無言で用意されてる各支給品袋の中身を覗く。


 中には縄、砥石、投石、剥ぎ取り用ナイフ、ライポイル草(モンスターの嫌う独特な臭いを発する草) が入っていた。


 試験用の鬼亀相手には必要最低限のアイテムってところだ。

 とりあえず砥石半分を投石の石で砕いて粉末にしてと……。


 ゴリゴリッ——


 それを支給品の袋に詰め、ライポイル草を握り潰し、汁を袋に垂らす。次に縄で袋を縛り、余った部分を手持ちナイフで斬り込み、乱れさせる。これで完了だ。


 同時に時間は経ち、第一試験者のラルクが呼ばれた。


 「それでは、準備はいいか!? 第一試験者 ラルク殿 位置につけ!!」

 「はい!」


 ラルクは試験場の中心に駆け足で行き、他の試験者は待機場所に入っていく。


 「これより、ラルク殿の試験を開始する。使用武器は大剣で良いな?」

 「はい!」

 「鬼亀だからといって油断しない様に!万が一危険と判断した場合、即刻中止とする」


 ラルクの準備が完了した事を確認した試験官は首にぶら下げていた笛を手に持ち、思いっきり息を吹き込んだ。

 「ピィィィッー!」と甲高い音が試験場に響き、試験場の奥にある鉄格子が自動で開き始める。


 奥から、ノソノソと何かが出てくる。余程、腹が減っているのか、口からはボタボタと唾液が溢れ出している。

 一本の角が生えた頭、口には鮫のような尖がった歯、背中には分厚い甲羅があり、4本の手足は甲羅の穴から出ている。

 見た目はまさに化物だ。

 しかし、鬼亀は動きが遅く、モンスターの中でも雑魚部類されている。


 他にも、この世界には鬼亀の様な化物以外にも人型の知恵を持ったゴブリンなどや魔人と呼ばれる存在も確認されている。

 すなわち弱肉強食の世界。


 人間は弱い生き物に属しているが、先代の人間達はモンスターに対抗する為、知恵、技、武器を振るう筋力極め、対抗してきた。

 昔から、人間達は生き長らえる為にモンスターを狩り、モンスターを食べ、モンスターの素材で服や防具、武器を作り、生活している。

 その為、男性は18歳になるとモンスターを狩る職業『ハンター』になる事を許され、定期的に18歳となった者にハンター試験を行っている。俺も先週18歳になり、試験を受けにきたのだ。

 基本的にハンター以外の職業は怪我を負って、武器を振る事が出来なくなった者か、女性しかできない。


 親父の様な例外はあるが……。



 

 「ウォォォォォォ!!」


 第一試験者ラルクは雄叫びを上げながら、鬼亀に猛進を始めた。


 少し遅れて鬼亀が反応し、口を大きく広げて待っている。

 鬼亀は鈍動の為、待ち伏せし獲物を捕らえる習性があるのだ。


 ラルクは走りながら右腕を上げ、背中の大剣の柄を握り、鬼亀の手前まで近くと前傾姿勢を取り、その勢いで大剣を抜き、地面に叩き付けた。


 『ドンッ!!』


 大剣を地面に叩き付けた反動でラルクは宙に浮き、身体を翻し回転、そのまま鬼亀の甲羅目掛けて振り下ろした。


 『バギィッン!!』


 甲羅は粉砕し、大剣の刃先は甲羅の内部の肉体に突き刺さる。鬼亀は動く気配も無く、微動だにしない。


 二階のギャラリーが驚嘆の声上げ、拍手を捧げている


 「「おぉ!!」」

 「「パチパチパチパチ」」


 どんな筋力してんだ……。

 親父が良く言っていたチートって奴だ……。


 そして、他の3人も危なげなく、鬼亀を討伐していく。

 エマは一本の矢を顔に放ち、鬼亀が頭と手足を甲羅に引っ込めた所に矢を集中的に放ち討伐。

 シリスは手足を切り刻み、行動不能に実質捕獲成功。

 キースは一瞬にして頭部を切断して、討伐。


 そして——

 俺の番がやってくる……。


 「おい……。アイツ武器持って無いぞ」


 ……。


 重い足で試験場の中心に行く。


 「最後はガルダ殿!!準備はいいな!?」

 「はい……」


 あぁ……。

 使用武器の確認くるのかな……。


 「えーと、使用武器は………」


 試験官は一枚の紙を見て硬直する。

 俺の詳しい事が書いてあるリストなのだろう。


 「ガルダ殿……。武器は申請していない様だが……」


 「はい」


 「何故だ?」


 「筋力が無いので」


 「は?」


 試験場内が困惑の声で包まれる。


 親父もこんな感じだったのだろうか。

 ハンターに成るのなんて辞めておけと口を酸っぱくして言っていたから、覚悟はしていたが……。


 そう——

 俺は地球という星で生まれた異世界人の父とこの世界の母から産まれた子。そして父は恐ろしく筋力が無い。

 いや父の世界ではそれが一般であり、正常だと言う。この世界が異常だと。


 そして、どうやら俺は父の遺伝が強く、あんな大剣や斧や弓、片手剣さえも……。


 「重たくて持てません」

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