第3話 大海原高校の憂鬱⑶
大西の鋭い突っ込みにも、雁部は真剣な表情を崩さずに言い募る。
「いえ、そういう訳ではないんですが……ただ、アホなので心配で」
「高校生だろそいつ!? 心配されなくても大丈夫だよ!」
本気で心配しているらしい雁部にごく常識的な言葉をかける大西だが、雁部は先輩の言葉にきっと眉を吊り上げる。
「先輩達はあいつのアホさを知らないからそんなことが言えるんですっ!!」
「どんな幼なじみっ!?」
真剣な表情でアホさを力説される幼なじみとやらにうっかり興味が湧いてしまった。
「どんなって……この俺に替え玉受験までさせかけた男ですよ」
こともなげに雁部が言う。
「あっさり不正を暴露すんなっ!!」
「未遂です。問題ありません」
エース候補の思わぬカミングアウトに動揺する二年生二人に構わず、雁部はくっと唇を噛みしめて悔しそうに言う。
「本当は同じ学校に入れてやりたかったんですが、大海原の偏差値が高いせいで無理だったんです。一応は出題傾向を分析して予想問題を作ってもらったんですが、これをあいつに覚えさせるのは現代の技術では不可能だと中学の先生方に説得され……」
心底無念そうに言う雁部は、大海原の偏差値を憎んでいることを隠さない。
「お前、替え玉受験がバレたら退学だぞ。未遂だからいいけど」
「幼なじみとはいえ、そこまですんな」
幼なじみがどれほどアホなのか知らないが、そこまで面倒をみてやる義理はないだろう。常識的に考えてそう言い聞かせる先輩達。しかし、雁部は拳を握りしめて言い放った。
「俺だってただのアホならそんなことしません! でも、あいつは普通のアホじゃない。神が創りたもうた奇跡のアホなんです! 人智を超越した存在なんです!」
「どんな人間っ!?」
拳を握りしめて失礼な奇跡を力説する雁部。
「俺はあいつのことは天が人類に与えた試練だと思っています」
「もういいよ! ここで電話しろよ!! 俺達の方が気になってしょうがねえよ!!」
幼なじみのアホさを人類の試練とまで称した雁部の言い分に押し負けて、特別にこの場での携帯使用を許可してしまった。
許可を得た雁部はいそいそと形態を取り出すと、先輩達の視線を気にせずに通話ボタンを押した。
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