第3話 大海原高校の憂鬱⑵
パァン パァン と鋭い音が響き渡る。
野球部専用グラウンドの一角に設けられたブルペンで、新入部員のピッチング練習が行われている。
一人ずつ名前を呼ばれ、ネットに向かって十球を投げる。
それを横で計測し記録をとる二年生部員が、次の新入部員の名を呼び出す。
「よし、次」
二年のリーダーである
「雁部。出ろ」
出番がまだの者も、十球投げ終えた者も、先輩が呼んだ名前に反応して、簡易ベンチに座る彼に注目が集まる。
「はい」
その視線を一身に浴びて、
ブルペンに入り、ネットに向かって構えを取る。
その姿は昨日入部したばかりの一年生とは思えないほど、どこにも余分な力が入っていない。特別に身長が高いという訳ではないが、程よく均整のとれた体格はマウンドによく映える。
一球、振りかぶって雁部が投げた。
タアァァンッ
ネットに綺麗に吸い込まれたボールは、ほかのものよりも一際強い余韻を残して風を切った。
ほう、とギャラリーが息を飲んだ。
「さすが、うちが三年ぶりにスカウトしただけのことはあるな」
続く雁部の投球を見守りながら、記録をとる大西は満足げに頷く。
「生意気そうでいけ好かないけどな」
隣で同じく二年の
大海原高校は選手のスカウトにはあまり力を入れておらず、スポーツ推薦で入学する生徒は年に一人か二人、野球部では三年前に一人取ったのが最後だ。
それだけに、大海原高校がスポーツ推薦を行使するか否かは毎年ちょっとした話題になる。
そして、今年の話題の中心は雁部 戒だ。
「うちの最有力エース候補だな」
二年生の正捕手としては、大いに期待とプレッシャーをかけていきたい。この中の誰かがいずれ自分とバッテリーを組むことになるからだ。
大西はボールがネットを叩く小気味のいい音を聞きながら笑みを浮かべた。
「あの、先輩」
十球を投げ終えた雁部がブルペンを降りて大西の元にやってくる。
「ん。なんだ」
何やら深刻そうな様子の雁部に、大西は先輩としての顔を向ける。
雁部は少し言いにくそうに言った。
「少し休憩させてもらえますか」
「どうした?体調が悪いのか」
たった今まで一年とは思えぬ好投をしていたというのにと首を捻る二年生二人に、雁部は深刻そうな表情を崩さぬまま言った。
「いえ。幼なじみに電話して無事を確かめなきゃいけない時間なんで」
「お前の幼なじみはサバイバルでもしてんの!?」
予想外の返答に思わず妙な突っ込みをしてしまった。
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