第3話 大海原高校の憂鬱⑴
「そういえば、霧原くんの親友ってどんな人なの?」
無事に日和を入部させることに成功した後、野分は先程の会話に出てきた日和の幼なじみについて尋ねた。
「どんなって……オレのためなら替え玉受験もいとわない男だよ」
「うん。だから余計に気になる」
日和は相変わらずなんてことないように言うが、普通は幼なじみに対して替え玉受験までするほど献身的にはなれない。
野分はそう思うのだが、日和は親友である幼なじみの行為をあまり深く考えていないらしい。少し首を捻ってから、ふと思いついたようにこう言った。
「そういえば、そいつ野球やってたよ。今、思い出したけど」
「親友が携わっているスポーツをあっさり忘れないであげて!!」
これまで散々野球のことを話していたというのに、何故もっと早くに思い出さない? と、野分はまだ見ぬ日和の幼なじみが気の毒に思えてきた。
「それで、そいつはどの学校に行ったんだ?」
晴が日和に尋ねる。
「お前が野球をやるってことは、その親友と対戦することもあるかもしれねぇぞ」
晴の指摘に、あっそうかと野分が頷く。
日和はこてんと首を傾げて、何かを思い出そうとするように視線をさまよわせた。
「え〜と……確か、どっかの学校にスカトロされて……」
「スカウトね! どこの学校? 名前は?」
日和のとんでもない言い間違いを修正しつつ、野分が尋ねる。日和はまるで遠く封印された記憶を思い出そうとするみたいに頭を押さえて唸りだした。
「確か……お、おお……なんとか」
「もしかして、大海原高校?」
この辺りで「おお」で始まる高校は大海原高校しかなかった気がする。
「たぶんそれ」と日和が頷いた。
「名門大海原にスカウトされた選手が替え玉受験しようとしてたの!?」
なんだか上手く言えないが、色々と複雑な感情が胸を過ぎる。名門にスカウトされるほどの選手がそんな危険を冒そうとするな。
それとも、そんな優秀な選手にそこまでさせてしまう日和がすごいのか。そりゃ、学校中の教師が総出で替え玉受験を阻止するはずだ。
「そいつの名前は?」
「え〜と……確か、軽部……いや、違う。カルビー?」
「覚えてないんかい!!」
しきりに首を捻る日和に、軽部だかカルビーだかに心底同情したくなった。
「替え玉受験までしようとしてくれたマブダチの名前を忘れんな!!」
「下の名前は憶えてるよ!「かい」っていうんだ!」
野分の突っ込みに、日和がそう言って反論する。
本当に「かい」という名前なのか、それともその二文字しか覚えていないのか。
片や替え玉受験してもいいと考えるほど献身的だというのに、片や苗字も覚えていないという自分達の偏った友情に何か疑問を感じたりしないんだろうか、と、他人事ながら野分は心配になった。
「そいつのポジションは?」
「え〜と、投げたり打ったりしてたよ」
「野球はだいたい皆、投げたり打ったりするけどね!」
「あの、なんかいっつも真ん中にいる奴」
「ピッチャーか!」
ひたすらアホと突っ込みで構成される会話の中で、幼なじみから散々な認識をされている選手。
いったいどんな奴なのだろう。話を聞く前よりもさらに深まった謎に、野分は頭を抱えたのだった。
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