第9話 雪だより

しょうこちゃんに誘われて、初めてスキーへ行った。

たしか?

大きなバスで、たくさんの人が乗っていた。


そんな、初めてのスキー。

しょうこちゃんは、時間になっても家から出てこなかった。


家の窓をたたいた。

わたしは、焦った。

しょうこちゃんは、寝坊したのだ。


大型バスが私たちを待っていた。

はじまりは、大パニックだった。


場所はニセコ。

スキー教室で習う。

スキー板、一式は、お姉さんのお古を貸してもらった。

運動音痴で、スポーツに無縁のわたしが、はじめてチャレンジした。


男の先生だったと思う。


「スキー板は高価なものなので、ほかの人の板の上に乗らないように」

と、話した矢先から、わたしは、先生の板に自分のスキーを乗せ、幻滅された。


その時点で、予想していたはずだ。


しょうこちゃんは、スイスイ滑れるようになり、わたしは、初心者ならではの、ボーゲンの大きなハの字を描いて、すっころんで、ばかりいた。


楽しいというよりも、今どきのブームに乗って行ってみたいという、だけだった。


「私をスキーに連れていって」の映画が大ヒットした時代。

雪山には、多くの若者がいた。


真っ白いスキーウェアが、流行りだった。


しょうこちゃんは、お姉ちゃんと暮らしていた。

わたしは、このお姉さんが大好きだった。

どこかに、遊びに出かけると、必ずお土産をくれた。

美人のお姉さん。


そんなお姉さんに借りたスキー板を、最終的にはもらい。

何度も、しょうこちゃんと、スキーへ行った。


雪山では、大きなハの字で滑り、転がる。

スピードが出ると怖くなる。

お尻をついて止まった。

回数を重ねるごとに、うまくなるはずなのに、いまいちつかめない。

ただ、ユーミンの歌を聴くのが嬉しい。


銀紙で包んだ、カツサンドは、美味しかった。

ラーメンも、最高だった。

スタイルなんてどうでもいい。

どうにか、降りてくれば、スッキリした。



ナイターでは、人がまばらだった。

わたしの練習の場所には、ふさわしかった。

貸し切り風のリフトに乗り、ユーミンの「BLIZZARD」を聴いた。


静まり返った夜の森に、響く音楽。

オレンジ色の大きなライト。

白い雪。

森の木々。

どんどん滑れるようになって、しょうこちゃんのあとを追う。

ただし、追いかけるのは、ラストの急な坂まで。



下りの最後の難所。

いつも、しょうこちゃんは、ここで待っていてくれた。



なのに、私の板は、いつも他人のもとへ向かう。

いつまでたっても、言うことのきかない。

思い通りにいかない、コントロール不能のスキー板だった。



また、いつか、ダイエットに成功したら。


もう一度、あの山からあの景色をみたい。



そのときは、最後の下り坂で、しょうこちゃんに、待っててほしい。

たぶん、こんども、コントロール不能かもしれないけど。


なんとか。


歩いてでも行くからね。



待っててね。






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