第6話 1988年 青函博函館 EXPO'88

函館の街並みが、夏に向かって変わっていった。

ビルの後ろには、大きな観覧車ができた。


1988年7月9日から9月18日まで72日間。

函館市と青森県で、同時に開催された「青函トンネル開通記念博覧会」。

にぎわう街とうらはらに、青函連絡船は、終了する。

花火に見とれているうちに、大型船の灯が消える。


津軽丸、十和田丸、八甲田丸、摩周丸、大雪丸、羊蹄丸。

あの寂しそうな、船長さんの横顔を見たばかりで複雑だった。


わたしは、お日様のしたで働くことにした。


ガソリンスタンドで、働いた。

新人は、つぎつぎ入った。

函館には、おおくの観光客が来た。

若者は、いい車に憧れてた。

元町周辺には、マンションが建ち始め、外車が走った。


函館駅周辺の景色が、短時間に変化した。

観覧車が、建ったことで、道さえ違って見えた。


青函博の会場は、メイン会場と、旧造船工場で行われた。

海沿いには、ジェットコースターもあった。


カラフルな色の風船がたくさん。お祭り気分だ。


友達に会った。


しずえちゃん。


色白のかわいらしい子だ。

本当に、しばらく会ってなかった。

黒い服。

長いスカート。

中学時代とは、だいぶイメージが変わっていた。


このお祭り気分の函館の街で、友達と出会う。

とても、とても、楽しい出会いだった。


わたしたち三人は、いつも、次の約束を探した。


柿の種をつまんで、ニッカのシードルを、飲むのが楽しみだった。

しずえは、ワイン。

しょうこちゃんは、ビール。

たわいのない話だけど、尽きない。

なにを、話したのかさえ、思いだせない。

ドラマ、ニュース、お笑い。


とにかく、酒の席では、柿の種が定番だった。

わたしは、ピーナッツが、苦手だった。

柿、担当だった。


しょうこちゃんは、一人暮らしを始めた。

仕事休みの前日は、しずえちゃんとふたりで、柿の種を持ち、アパートに行った。

冷蔵庫には飲みものだらけ。

深夜の番組をみながら、たわいのないおしゃべりは続く。


共通点は、3人とも歌が大好き。



もっと、20代を楽しめばよかったと、話すこともある。

けど、あのときは、「柿の種」と、お酒で、最高に幸せだった。


いい顔して、笑っていた。


「柿の種」と、話すだけで、笑っていたもの。


あれは、あれで、楽しかったのだね。


1988年、柿の種が、私たちの流行語大賞だった。


函館は、青函トンネル開通イベントの、お祝いムードに包まれていた。




















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