第5話 丘の上の光
スーパーマーケットを、やめた。
季節は5月だった。
退職してから、家で、ぼんやり絵を描いた。
青空を描こうと思ったら、曇り空だった。
母は、何も言わなかった。
夕闇の時間がくるのを、日が沈むまで、じっくりと眺めた。
部屋の窓から、函館山の頭の部分だけ見えた。
頂上の部分が、光るティアラにみえた。
光が揺れる。
車のライトかな。
ぼんやりと眺めた。
高校時代から、お金をほしいと、話したことがない。
そんなわたしに、母は「お金あるかい?」と聞いてきた。
嬉しい気になった。
なにもかも、自分で解決しようと、思ってたわたし。
意地をはっていた。
母の思いなど、考えてもいなかった。
元気になろうと、思った。
次の日、
一人で車に乗って、渡島当別までドライブした。
八重桜が、咲いていた。
濃いピンク色の桜の木
小高い丘にのぼり、遠くに見える海を眺めた。
はじめての社会経験は、幼稚園だと思う。
カトリック幼稚園に通っていた。
素直に、神様を受け入れた。
洋風のお人形があった。
女の子は、取り合いになった。
大好きだったのは、ハンカチを入れる木製の棚。
ひとり、ひとりに、ちいさなハンカチサイズの棚があった。
お祈り、歌。
隣りにある教会。
窓がある、怖い階段。
辛い時には、神様に会いに行くと,
よい気がした。
トラピスト大修道院。
女人禁制のカトリック修道院。
この場所に、わたし、ひとり。
小高いみどりの丘は、神様のひざもとのような気がした。
お天気が良かった。
海が真っ青。
新しい草の色は、冬を乗り越え、まばゆいばかりに輝いて見えた。
なにも、怖がることはない。
いまは、癒されよう。
やよいちゃん、どうしているかな?
草の上に座りながら、お日様のない世界を思い出した。
希望も夢もない。
ただ、風に吹かれて揺れていたかった。
八重桜は、とても美しかった。
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