第4話 1988年・青函連絡船
あれは、夢だったような気がする。
光り輝く、細長い街のあかりが、迫ってくる。
暗闇から光の中に、入る。
ここは、船の運転席。
多くの人の、夢と希望、人生を乗せて、本州へ渡る大きな船。
1988年9月18日、函館と青森を往復していた青函連絡船が、完全に、役目を終えた。
「最後に乗船しよう」と、市民は盛り上がっていた。
まさか、わたしも、乗ることになるなんて、思わなかった。
それこそ、毎日、スーパーで叱られながらも、働いていた。
突然、降ってわいたような、楽しみがおとずれた。
しょうこちゃんのお母様が、知り合いから、往復乗船券を3人分もらった。
わたしたちは、喜んだ。
エイコと私と3人が、招待された。
特別待遇だった。
部屋も、個室。
こんな部屋があったのかと、感激した。
船員さんが、案内してくれた。
船長さんまで、私たちに、声をかけてくれた。
しょうこちゃんの、お母様は、いったい?
待遇が良すぎる。
ちょっと、気分がよかった。
人がいっぱい乗っていた。
修学旅行で、何度か乗ったことはある青函連絡船。
東京に住んでいる叔父が帰るときは、見送りに来た。
函館駅の電車を降りたら、少し歩いて、乗り場へ行く。
船は、片道4時間ほどで、青森についた。
この船が、青函トンネルが完成して、役目が終わる。
わたしたちは、個室で過ごしたり、デッキで、海をみた。
歴史の幕が下りる瞬間を、まったりと過ごした。
もう少しで青森に到着する。
「入港するから、上がっておいで」
船員さんが、私たちを呼びに来た。
私たちは、青函連絡船の操縦室に案内された。
ここは、船の運転席。
緊張した。
真っ暗い海。
地平線に、ひかる灯りは青森の街だ。
光るレーダーをみて、わたしは、近づく青森の街をみた。
「入港するときが、一番、むずかしい」と、船長さんは話した。
輝く青森の街が、船が近づくたびに広がった。
大きな船は、光の中に入る。
ゆっくりと、80年間、こうして北海道と本州をつないできたのだ。
感動した。
いままでの、まったりとした時間は、吹き飛んだ。
船員さんの横顔をみた。
静かだった。
この船は、生きていた。
青森に到着した瞬間、寂しさがこみあげてきた。
何も話さず、無言になった静かな時間を思い出す。
青森の街も、人でごった返していた。
りんご飴、ねぶた祭の絵のついた南部せんべいが、飛ぶように売れていた。
修学旅行以来、友達と来たことにない旅に、はしゃいでいた。
しようこちゃんは、何を買ったのだろう?
わたしは、大好きな南部せんべい。
エイコは?
歴史の終わる瞬間にいた。
貴重な経験をした。
夢のような気もする。
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