第6話 理想 と 現実

「それでは、この前のテストを返却します。赤点の人は、正しい答えを全て埋めてレポート提出。良いですね」



中間テスト。


最悪の結果だった。


英語解答用紙。


結果……


赤点。



「最悪……」



いくつか答えは埋める事は出来たものの、全部の解答は出来ていない。




その日の夜。



「お前、赤点やったんか?」

「えっ?うわっ!いつの間に!?」

「今の間に」

「えっ?今の間にって……」

「電気付いてたから、寝落ちしてんのかと思うて来てみたら、そういう事やったんか?」



≪絶対に馬鹿にされる!こんな問題も溶けへんのか?って…≫



「一緒に解いたるわ!」


「えっ?」


「何やねん!その拍子抜けした面は」

「いや…馬鹿にされるって思ったから」


「アホ」



オデコをツンと突っつかれた。



「してほしいならやってもええけどな」



微笑む鮎夢。



ドキン

胸の奥が小さくノックした。



すると、頭をポンとする。


ドキッ

胸が大きく跳ねる。



≪わっ!何?何?鮎夢のスキンシップに私の胸がおかしくなってる!≫



「一緒に解いたるわ!期限まで提出せなあかんのやろう?」


「そうだけど…」

「ちょっと待っときぃ」

「うん……」




私の部屋を後に、鮎夢は一旦部屋を出た。


少しして戻って来ると自分の解答用紙と問題を一緒に考え解いて教えてくれた。





そんなある日の事だった。



「魅羽、鮎夢君」

「何?」

「はい?」



母親に廊下から呼ばれ、お互いの部屋から顔を出す。



「今日から2日間、留守番宜しくね」


「留守番?」と、私。


「はい!分かりました!」と、鮎夢。


「ちょ、ちょっと!鮎夢即答!? ママ、年頃の男女おいて外泊とか有り得ないんだけど!」


「信頼されてる証拠なんちゃうん?」


「いやいや」


「ほな、俺は友達の所にでも泊まるわ!そうしたら大丈夫やろう?」


「いや…それはそれで…私一人は流石に何かあったら怖い」


「じゃあ、どないすんねん!お前が友達の家に行くちゅうのもありやで?」


「良い!大丈夫」


「魅羽、あなたに色気はないけど愛しの ayumu 君そっくりさんに守って貰った方が良いわよ」


「なっ…!」


「ぷっ…母親にも言われてんでぇ~」


「女の子は、恋して、愛して愛されて綺麗になるものよ。まあ、16だし、それなりの女性らしさはあるかもしれないけど、魅羽、現実を見ていないもの」



「確かに」と、鮎夢。


「理想は、芸能人の ayumu 君でしょう?確かに存在はしているけど、手の届かない相手よりも目の前にいるイイ男の鮎夢君を見たらどう?」


「えっ? だ、誰がこんな奴!」




私は部屋に戻る。



「じゃあ、二人とも宜しくね」

「はい、気をつけて行って来て下さい」

「ありがとう」

「行ってらっしゃーい!」



部屋から叫ぶように私は見送った。


その日は、何事もなく一日が終わった。



次の日。



「魅羽、俺、ちょっと急用で出掛けるんやけど大丈夫か?」



部屋のドア越しから言う鮎夢。



「えっ?出掛けるの?」



カチャ


部屋のドアを開ける。



ドキッ

違う雰囲気の鮎夢に胸が大きく跳ねた。



「せや。急用やってん!夜、遅くなるかもしれへんけど」


「そっか……分かった。行ってらっしゃい」


「おう」



頭をポンとする鮎夢。


ドキッ



「一人留守番頼んですまんな」


「ううん」



鮎夢は出掛けた。



ふわりと香る残り香の香水が、高校生とは思えない程、鮎夢が大人に感じた。


ayumu に似てる以前よりも、時々、鮎夢の存在が私の心を惑わす。




夜、11時頃、鮎夢は帰宅し、玄関で八合わせになる。



ドキッ


「ただいま」

「お、おかえり」

「大丈夫やったか?」

「えっ?」


「まあ、見た所によると何もなかったようやな」

「うん、大丈夫……」



家にあがると、私の頭をポンとする。


ドキッ


ふわりと香る香水が私の鼻を擽る。



「…香水…」

「えっ?」

「鮎夢、香水つけるんだ」

「ああ、つけるで」

「そうなんだ。朝も香りがしたから」

「アカンか?」


「いや、普段の鮎夢のイメージとは違って…大人って感じがして違う意味でドキッとした」


「そうか?」


「うん」



私達は少し見つめ合う。




≪ハッ!何してんの私≫



「そ、それじゃ部屋に行……」



私は2階に行こうとすると、グイッと腕を掴まれた。



≪えっ?≫




すると、背後から抱きしめられた。




ドキーン…



「…鮎……夢…?」


「す、すまん…。…か…体が勝手に動いてもうた」


「えっ!?」



クスクス笑う私。


「な、何それ……操り人形じゃあるまいし。優城 鮎夢が、ayumu に操られてんじゃないの?」


「そうかもしれへん」


「ほら、離して」



鮎夢は抱きしめた体を離す。



「おやすみ。先に行くね」

「ああ」



私は2階にかけ上がった。




「…………」



「私の心がおかしくなりそうだよ……」




















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る