第5話 お出掛け

それから数か月が過ぎ ――――



「あれ?ママ、鮎夢は?」

「鮎夢君なら朝早くに出掛けたわよ」

「出掛けた?……そっか……」


「用事あったの?」

「えっ?あっ、ううん。出掛けたなら良い」

「そう?」

「うん」



≪せっかく出掛けようと思ってたんだけどな…≫




その日の夜。




「あれ?魅羽は?」

「魅羽は、寝ている様子だったけど」

「そうなんや」


「あっ!そうそう鮎夢君、今日は仕事だったのよね?」


「はい、そうですよ。何かあったんですか?」

「いや、魅羽が鮎夢君の事を尋ねてきたから」

「あー、アイツ俺が業界の人間やちゅう事知らんからなぁ~」

「そうか。それもそうよね」


「取り合えず聞いてみます」

「ええ、お願いするわ」



そして、自分の部屋に行く前、俺は魅羽の部屋に寄った。


すると、映画のチケットが目につく。


「映画……?もしかして俺と観に行く予定やったんかな?」



次の日の夜、俺は魅羽の部屋を訪れた。



「魅羽、入るで」

「どうぞ」

「なあ、昨日、俺に何か用事あったんか?」

「えっ?」

「いや、魅羽のお母さんが言うてたから。何か用事あったんかなぁ~と思って」


「…それは…」


「いや、ないなら別にええねんけど…ほな、部屋に戻るわ」


「う、うん……。ねえ鮎夢」

「何や?」

「…ううん…やっぱり良いや」

「何やねん!言いたい事あったらハッキリと言いや!」


「何もありません!」

「そうなんや。じゃあ、これは彼氏と行く予定やったんかな?椿 魅羽さ~ん」



映画のチケットをヒラヒラと見せびらかすようにする鮎夢。



「ああーーっ!そ、それっ!」


「これがどうかしたんか?いや、彼氏と行くなら返すねんけどな。どうも違う気がすんねんなぁ~。お前に彼氏いてへんやん?」



「た、確かにいないけど」



「そうやんなぁ~。お前の永遠の彼氏は、ayumuちゅう業界の奴なんやろ?で?本当の所、どうなん?これ、誰と行くん?」


「そ、それは…つーか、あんたには関係ないじゃん!」


「そうかぁ~。じゃあ、これ返すわ!ほな」

「ちょ、ちょっと」

「何やねん!」

「い、一緒に行きたいんだけど!映画」

「…どないしようかな?」


「………………」


「忙しいなら良い!無理に行こうとは思わないから!」


「いや、別に駄目やないねん。ただな…」

「ただ…何?」


「いつもの姿やと学校の奴等に会うたら付き合うてるって誤解されてまうし、眼鏡外したらそっくりさんやから。お前がええって言うならかまへんのやけど」



「私は別に気にしないけど」


「そうか?ほな、出掛けたるわ。別々行くか?一緒に行くか?」


「それは…一緒に…」


「分かった」



歩み寄り頭をポンとした。


ドキン



「日程とか、こっちから連絡するわ」

「うん…分かった」




そして、当日。



「魅羽、準備出来たか?」

「うん出来たよ」



カチャ


ドアを開けると、鮎夢が腕を組んで、壁に凭れ掛かるように立っていた。



ドキン



≪ヤバイ…鮎夢が、ayumu に似すぎて≫



「ヤバッ!」

「何がやねん」

「見慣れてる鮎夢が…芸能人の ayumu に似すぎて顔を見れない」

「だったら目隠ししいや。映画館まで連れてったるから」


私達は騒ぐ中、外出する。



鮎夢は、外に出ると帽子を被り眼鏡を掛けていた。



「眼鏡掛ける事にしたんだ」

「あー、別に外してもええねんけどな」

「そっか」

「帽子被っていればバレへんかなぁ~と思うてな。まだ、いくつか変装道具あるで」


「えっ!?変装道具!?」

「せや。ayumu そっくりさんやから」

「それもそうだよね。そっくりさんも大変だね」

「そうなんや~。羽目外したくなったら協力してな」


「えっ!?羽目外す?」

「街の反応見てみたないか?」

「えっ!?や、辞めなよ」



クスクス笑う鮎夢。



「嘘や」




私達は色々話をしながら向かった。


映画を観て、人の目を気にしつつ、気をつけて食事をする。


その後、真っ直ぐ帰る事なく、鮎夢が気になる店に入ってみたりと午後からは鮎夢の優先の時間だ。



≪そういえば…鮎夢って一人で出掛けたりするのかな?≫


≪そっくりさんだから下手に出歩かれなさそう≫



「……羽、魅羽、椿 魅羽さーん」



ポスッと帽子を被せた。



「わっ!な、何?」



ちょっと大きめサイズの帽子が被せられ私の視界を塞ぐ。



「何、ボーッとしてんねん!」

「えっ?いや…」



のぞき込む鮎夢。


ドキッ



「ねえ、鮎夢は、出掛けたりしてる?」

「えっ?何やねん。急に」

「いや、余り出歩かれないんじゃないかなぁ~と思って…」


「あ~、変装すれば、免れてバレへんから問題ないで」

「そっか…。そっくりさんも大変だね」



「ねえ似てない?」

「まさか!?いるわけないじゃん!」

「あの ayumuだよ?」



≪ヤバイ会話が聞こえてきてるんですけど≫



「その帽子、大事なもんやからしっかり押えとってな」

「えっ? …鮎……」



グイッと私の腕を掴み走り出した。



「わっ!ちょっと鮎夢っ!」



「えっ!?今、鮎夢って」

「本物!?」

「嘘!嘘!ヤバイっ!」



「アホッ!名前言うたらややこしくなるやろ?」

「わわ!ごめんっ!」



私達は街中を走り去る。




「ドラマの撮影!?」

「嘘!?生ayumu じゃん!」



≪やっぱり、鮎夢、本当に似てるんだ!≫

≪これだけ騒がれるんだもんね≫



私達は路地裏に入ると、私を壁に押し付け、抱きしめるようにされた。



ドキーッ



≪ち、近い!≫




帽子を被っているとはいえ、かなり体が密着しているのが分かる。


狭い範囲の視界でも分かる。


心臓が飛び出しそうな勢いで、私の胸は大きく跳ね上がり、ドキドキ加速する。


私に被せた帽子の向きを変える鮎夢。


そんな鮎夢は眼鏡を外している。



「鮎夢……眼鏡……」

「外したで!」

「えっ!?だから騒がれんじゃん!」

「学校の奴等に会うたらかなわんし。お前が俺といるのがバレへんならええ事やし」


「そっくりさんのayumuに扮してお前が帽子を被ってりゃええ事やん」


「だけど……」


「しかし…お前、その姿、案外可愛えなぁ~」



ドキッ



「えっ?」


「さて、俺も第2弾の変装しよ♪」


「えっ!?」


「だって、まだ遊び足りへんもん。帽子、お前、そのまま被っときぃ。まだ付き合うて貰うで!」




私達は、再び街に出た。

































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