15話
その真意を掴むことができず、
しかし、すぐに止まっていた思考を無理やり回しだす。どうしてだとか、なぜ今だとか、そんな逡巡は無駄だ。そんな余計なことを考えている暇はない。
すぐにでも答えなければ、また、あの地獄が……!
「お、おそらく
小貫はなんとかそれだけを絞りだすことができた。
それに対して、イエスもノーもなく、
感情の乗らない冷徹な視線が向けられているのを感じながらも、それに目を合わせることなどできるはずもない。
高々数拍の間が、永遠の責め苦に感じられた。
視線の当たった部分から腐り、溶け落ちるような感覚を覚えながらも、小貫は必死に姿勢を保ち続けた。
「……その理由は?」
痙攣するようにビクついている小貫を試すように、昧弥からの静かな問いが続く。
「はいッ! 講師が気絶させられた際に酸欠の見られました! そこから推察して、
あと、
最後まで声に張りを持たせることはできなかった。
言葉を一つ重ねるたびに、自分に突きつけられた死神の鎌が食い込んでくるようで。小貫は喘ぐように途切れた言葉を、投げやりに吐き捨てて口を閉じた。
喉を鳴らして唾を飲み込むが、緊張が荒縄のように首を絞め上げてきて、呼吸も儘ならないまま昧弥の言葉を待った。
時間にすれば、ほんの数秒。
徐に吐きだされたのは小さな鼻息だった。
「――ハズレだ。下作が」
「――ッ!? がッ! ぎぃいいぎゃがぁあああ!!!」
途端、小貫の口から慟哭が溢れた。
立っていることができず、頭を抱えながら地面でのた打ち回る姿を、昧弥は冷酷な瞳で見下ろした。
頭の中をミキサーにかけられているような頭痛。一秒ごとに意識も自我も、自身を形成する何もかもが削り取られていく耐えがたい激痛に、小貫はもはやここがどこなのかも、自分が誰なのかも分からなくなっていた。
しかし、その声だけは澄んだ冬空に青褪める満月のように明瞭だった。乾き切った砂地に水を垂らすように、鼓膜を打った音が抵抗なく脳に染み込んでくる。
その声を聴くことだけが、小貫に許された最後の寄る辺だった。
「まず、
加えて、念動力で《サイコキネシス》の場合、ドアを破壊したような爆発まがいの現象は考えづらい。
滔々と語られる内容に、
――この
自身の
同時にこれ以上、自分の業の性質をぺらぺらと吹聴されてしまっては、今後の活動に大いに支障をきたす。
――こいつぁ使いたくなかったんだが……背に腹は代えられねぇ!
殻木は
「そこから考えるに、こいつの業は空気に己のマナスを」
――バァン!!
昧弥の言葉は、突如として響いた凄まじい爆発音によって掻き消された。
それとほぼ同時に、ダニアの体が凄まじい勢いで上方へと打ち上げられる。いや、正確には弾き飛ばされたようにしか見えない速度で、ダニアは地面を蹴って上空へと身を躍らせ、その衝撃の範囲外へと逃げおおせていた。
しかし、それは殻木の拘束が解かれたことも意味していた。
「
自由になった瞬間、殻木は獣のような俊敏性で動いていた。
四ツ足で地面を蹴り、床でのた打ち回る小貫の服を引っ掴むと、そのままの勢いで滑るようにして距離を取る。
小貫を背に庇い、両者の間に立ち塞がる姿は、傍から見れば弱者を守る善性を体現しているように映るだろう。
「オレの友人がぁ、虐められてんのをこれ以上黙って見てらんねーぇんだわ」
そして殻木はそれをしっかりと理解しており、むしろそう見えるように立ち振る舞いを調節していた。
震える手足を抑えつけているように、恐怖に縮み上がる精神を滾らせているように、悪を見逃すことのない正義の炎を目に宿しているように。
一挙手一投足に意識を張り巡らせ、自身を構成するすべてを、公明正大に人道の中央を歩んでいると、偽って見せる。
――ここに正義と悪の構図ができあがっていた。
「
それは宣誓のように響いた。
自身の声が
――いつの間にか、殻木の背後には拘束具に縛られた人影が浮遊していた。
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