09話
なるほど、と
確かに
故に、
それはこれまでの研究で明らかになり、揺るがぬ事実として確かとなった、
だが――、
「でも、業はあくまでも
あまりに現実性に欠ける。
業が
個々人によってマナスの量や質に違いがあるとはいえ、それがどれだけの無謀なことか……想像するまでもない。
「うん、普通ならあり得ない。でも聞いた限り、彼女は普通じゃない。だからもしかしたらって考えたんだ」
枝薙はピンと人差し指を立て、遠慮がちだった語気の弱さを押し流すように、一息で吐きだすように語りだした。
「あくまで自論で根拠もないから証明もできないけど……彼女はマナスが大きすぎるんじゃないかな? それこそ
僕らのマナスがダム位の大きさだとしたら、彼女のは海くらいの巨大さ。だからマナスから零れ落ちたくらいの業でも、
そこまでで言葉は切られ、反応を
確かに、その論は筋が通っているように思えた。
しかし、それでも、と納得できない思いが胸の奥から染みのように滲んでくる。
もし、それが正しいとするなら、彼女はいったいなんなのか……果たして、人と言えるのだろうか……?
底の見えない海底を覗いてしまったときのような、足元から這い上がってくる正体不明の恐怖に、結紀はぞくりっと身を震わせた。
背中にひたりと貼りついた
「言いたいことは分かったけど……でも、それは
「それについては、彼女の業が
まぁ、ダムの全容量と同じだけの水が入った袋を人の腕力だけで動かすようなもんだけどね」
言いたいことはすべて言い終えたのか、枝薙は上体を反らし、天井に向かって大きく息を吐いた。
「まぁ、どれだけ議論を重ねても妄想でしかないんだけどさ。でも、僕たちもまた覚者で、
「ああ……そうだね。でも、少しは対策の仕方が見えてきたんじゃないかな? 枝薙の予測が正しいなら、多分だけど、そこまで業を精密に動かせないんじゃないか?」
「パワー厨ってこと? 力こそパワーッ! みたいな?」
腕を曲げ、可愛らしく力瘤を作り、ふんっと鼻息を吹いてみせるユクに、結紀は苦笑しながら頷いて返す。
「ちょっと表現がよく分かんないけど、概ね合ってるかな。だから遠距離から一方的に多彩な攻撃ができるのが強みのはずの
「なるほどね。それなら君の
……うん、分かった。じゃあ、彼女に出会ってしまった場合、なるべく離れて対応して、何かあったらすぐに素早く逃げる。これを徹底するように、会議でその方針を話してみるよ」
「ああ、よろしく頼む。……なんか結局、色々と動いてもらうことになってるな」
「もうそのことはいいよ。僕も色々聞いて考えてみたけど……確かに今すぐ動かないと大変なことになりそうだしね。
仮初だし、吹けば崩れるような弱々しい平穏だけどさ。ようやくこの島に訪れた束の間の休息なんだ。できるなら僕も、なくしたくない」
しんみりと目を瞑り、浸るように語る枝薙に、結紀も頷いて返す。
この島ができてから長い月日が経った今、ようやく秩序らしきものが形成されつつある。
それが完全なものではないとしても、壊されることで流れる涙があるのは間違いない。それが自分の周りでない保証は……どこにもないのだ。
その事実を確かめ合った二人は、正面からしっかり向き合って、互いの意思の向かう先を確かめるように見つめ合った。
「本当にありがとう。何かあったら声をかけてくれ、必ず助けになるよ」
「任せてよ。なんていっても――僕はAクラスのクラス委員長だからねっ」
お茶らけて笑い、わざとらしく胸を張ってみせる枝薙に、結紀も柔らかく頬を緩める。
二人はこの縁に感謝しつつ、これから待ち受ける受難に、共に立ち向かうことを誓うように手を固く握りあった。
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