中華料理店


(*:営業の青木です)



知らない街に来た青木さん、今日のお昼は中華料理店にしました。



「へい、お待ち!」


*「ああ、大将。いや、私、今来たばっかりでまだ何にも頼んでないですけど、、」


「いえいえ、私をお待たせましたって事です」


*「そうなんですか。じゃあ、そこは『いらっしゃいませ』じゃないの?」


「そうとも言いますね」


*「いや、それが普通だと思いますけどね」


「まあ、いいじゃないですか、中華料理店なんで、、」


*「そういう事かなー? 中華も日本料理も関係無いと思うけど、、まあ、いいか」


「で、今日はどんなご用件で?」


*「『ご用件』って? 昼ご飯食べに来たんですよ。この時間にアポ無しで営業に来るわけ無いでしょ」


「あー、そうなんですか、、」


*「当り前じゃないですか。こんな時間、中華料理店に他に何しに来るんですか?」


「うーん、どうでしょー?」


*「長嶋さん?」


「いえいえ、私は王です」


*「あー、中華料理店だから王さんって苗字なんですね」


「そうじゃないですよ、王さんのファンだという事です」


*「そうなんですか、紛らわしいなー」


「そうですか? 私は普通に答えただけですよ?」


*「はいはい、分かりました。別にご主人が誰のファンだろうがどうでもいいんですけど、、」


「え、私、独身ですよ」


*「はい? そんなこと聞いてませんよ?」


「だって、『ご主人』って言うから」


*「あー、あー、成程。いや、そういう意味じゃなくて。このお店のご主人でしょ、って意味ですけど、、」


「いえいえ、このお店と結婚したつもりはありませんよ」


*「そうじゃなくてさー。もう、そんな事どうでもいいんだけど、、このお店の店主さんでしょ?」


「違います、雇われコックです」


*「そうなんですかー。これは失礼しました」


「今週から働いてます」


*「そうなんですかー。いや、私はこのお店初めてなんで知りませんでした」


「私もあえて言ってませんから」


*「でしょうね。『コック、代わりました!』なんて、余程の腕のコックじゃなきゃ、宣伝できないですよね」


「それって、私は『余程の腕のコックじゃ無い!』と、、、」


*「いえいえ、そんな事は無いですよ。失礼しました」


「良いですよ。その通りですから」


*「なんだ、紛らわしい!」


「で、いかがしますか?」


*「そうですねー、なんだかんだで昼の時間が無くなってきたんで早くできる物を、、、」


「水?」


*「水は料理じゃないでしょ!」


「ビール?」


*「昼間から飲めませんよ」


「たくあん?」


*「それ漬物でしょ、しかも日本の。せめて、ザーサイを勧めてくださいよ」


「はい、じゃあザーサイ、1つ!」


*「ちょっと、ちょっと!まだ頼んでませんよ!」


「そうなんですか、紛らわしい!」


*「そうだったかなー? じゃあ、ラーメンで良いですよ」


「ラーメンか、、、」


*「あれ、時間掛かります?」


「掛かりますね、、、まだお湯とか、麺とか準備が、、、」


*「このお昼の時間にラーメンの準備ができてないんですか!」


「すみません、想定外なんで、、」


*「何で昼のラーメンが想定外なんですかー」


「皆さん、それ以外を頼むかなーって、思って、、」


*「そんな事無いですよ!ラーメンが1番ですよ!」


「そうなんですか、ふっふっふっ」


*「あ、そんな笑っちゃって!前にどんなお店で働いてたか知りませんけどね、庶民は昼の中華っていったらラーメンが1番なんです!」


「ふーん」


*「『ふーん』って。知らないんですか!」


「ええ、すみません」


*「もう。じゃあ、チャーハンはどうですか?」


「チャーハンか、、、時間掛かるなー」


*「えー、チャーハンも駄目なんですか!」


「はい、ご飯炊けてなくて、、」


*「ちゃんと準備しておいて下さいよー」


「気を付けます。すみません」


*「お願いしますよ。じゃあ、一体、何ができるんですか?」


「サンドイッチですね」


*「サンドイッチ?中華料理店なのに?」


「はい」


*「じゃあ、何のサンドイッチができるんですか?」


「たくあんとザーサイになります」


*「何それ! もういいわ!」


「ありがとうございましたー」


*「ありがとうございましたー」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る