レペゼン
春というのは邪悪な季節だ。
花が咲き、生き物が活動をしはじめる。
それが素敵だと人は言うが、そんな事は全然ない。
そもそも植物という存在が不浄の極み。
植物に性欲や意思といった類いのものがあるのかは、現代科学では計り知ることは出来ないが、そもそも花を咲かせるという事象自体が繁殖の為なのだ。
しかも繁殖の為に撒いた花粉が人間を苦しめる。
もし仮に植物の立ち位置に人間がいるとすれば、
そこら一体に精子を撒き散らしているわけだ。
おぞましい。
実におぞましい。
おぞましいという以外の言葉で表現出来ないレベルの事象。
なにも汚いのは植物だけに限らない。
道路に糞を放り出す野良犬も、歩くのが嫌だからという利己的な理由で待機を汚染する人間も皆平等に汚れている。
「殺してくれ」
そう、つぶやきたくもなる。
日本の平均寿命が84歳で、今自分が14歳という事を考えると、あと40年はこの姿で生存しなければいけないんだから。
もちろん自殺という選択肢もあるだろうが、一応は親からもらった体だ。
親が存命中だけはしかたないので生きる事にしている。
だから四十年はなんとか生きなければいけない。
なんて憂鬱なんだ。
俺は自分のメガネを使い捨てのメガネ拭きで拭き取ると、もっていたジップロックにそれを入れると、しっかりと蓋を閉めた。
人は俺を潔癖症というが、違う。
周りの人間が無頓着で、想像力と言われるものが欠如しているからだ。
許せない。
配慮や思いやりなんてことまで忘れてしまえば、いよいよ動物と変わらないじゃないか。
俺はパソコンのモニタを見つめながらそう思っていた。
時刻は昼休み。
情報教育用の教室で俺は動画サイトを開いていた。
どうやら中国とアメリカが貿易摩擦で大変な事になっているらしい。
詳しくはわからないけれど、おそらくは大変な事らしい。
このままじゃ戦争に巻き込まれるかもしれない。
体を鍛えねば。
そう思った時だった。
俺は誰かの視線に気づき、振り向く。
そこには、クラスメイトの田中が立っていた。
「何見てるの?」
田中はなんだか、読者モデルってヤツをやっているらしく、学校をよく休んでいる。
黒髪ストレート、でっかい胸。
大人は学生の女が好きというし、芸能界の汚い大人たちに騙されて、パパ活ってヤツもやっているにちがいない。
「あ……えっと……いや……」
別に俺が何をしているかなんて教えてやる義理などない。
俺が話さずにいると、田中が俺がさっきまで使っていたマウスを手にとった。
「なになに見せ――」
「触るな」
「えっ……!? な、なんで?」
「い、いやその汚いから……」
「汚い? 何が?」
「し、知らないのか? 人間が使ったマウスというのは細菌が繁殖してトイレの便器並に汚いんだ。今この瞬間、うんこを触ったの同義なんだぞ」
人間は汚い。
触った全てを汚染させていく。
田中は俺の声に従うように手を引っ込めた。
「えっ……うん……」
「そうだ、だから触るな」
どうやら、俺の声に耳を貸す程度には頭が回るようだ。
「で、でもさ……そんな簡単に繁殖するのかな?」
「するぞ」
「そっか……じゃあ、代わりに朝倉くんがDM書いてよ。インスタで連絡きてるから見ないといけないんだけど私機械音痴であんまりスマホは写真と電話しかできないからさ……」
「俺の……名前知ってたのか?」
このパパ活女子が俺の名字を知っていることに驚いた。
てっきり同年代の男子はガキくさいから近寄らないでぐらいな低知能な事を言うと思っていた俺は驚いた。
「だって、同じクラスでしょ?」
「ま、まぁ……」
「じゃあいいじゃん。アカウントのログインはこれでできるよ」
そう言って、田中は俺にスマホの画面を見せてきた。
ログインに必要な必要なメールと暗号化されていないパスワードが、写真に写っている。
スクリーンショットとかじゃない。
モニタに映ったそれをカメラで撮っている。
「まぁ良いけど……えっと……」
そう言ってモニタに向き合う俺の頬を田中がつついた。
向き直ると、田中は笑いながらこういった。
「細菌ついた?」
「知らん」
俺は『インスタ』という言葉を検索する為にまた向き直る。
「やーいうんちーうんちー」
「おんながそういう事を言うな」
やっぱり人間はきたない。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
今日のテーマ :うんち マウス
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます