間の悪い男
バスを待つ為にバス停のベンチに腰掛けていると、埃と湿気が混ざりあった匂いが俺の鼻腔をくすぐった。
「あー傘……会社に置いてきちゃったな」
そんな事、いつもなら気にもとめないが、昨日から自分が使っている営業車が車検ということもあり、バスでの移動を強いられているので天気の変化に敏感にもなる。
しかし、こんな匂いも随分久しぶりだ。
子供の頃は、こんな匂いを毎日嗅いでいたはずなのに、大人に成ればなるほど屋内に引きこもりがちで嗅ぎ飽きたはずの匂いでさえ新鮮に感じる。
そうこうしていると、アスファルトに黒いシミが出来はじめた。
空の流れる雲の動きは早い。
風もでてきた。
雨雲はもう俺の頭上まできているようだ。
降りしきる雨の中、バスはいつまでも来ない。
この間の悪さは、生まれてからずっとだ。
「はぁ……」
ため息一つついて、降りしきる雨を眺めていると、誰かの足音がこちらに近づいてくる。
目を向けると、そこには女子高生が1人。
なんとかこのバス停にたどり着いたんだろう。
膝に手をつき肩が揺らしていた。
栗毛の髪は汗なのか雨なのか、前髪が額に張り付き
ウェーブがかった髪は湿気で膨れ、毛の流れは乱れに乱れている。
ブラウスは雨に濡れ、透過した水色の下着がこちらに挨拶をしている。
「もうっ!」
女子高生はこちらに気づいていないようで、小さく悪態をついている。
わかる。
わかるよ。
きっと傘を忘れたんだよな。
俺も一緒だよ。
そう心の中でつぶやくと、女子高生がこちらを向いた。
「あっ……」
俺に気づき、会釈を一つ。
俺もそれを返す。
「はぁ……ご、ごめんなさい、人いると思わなくて」
随分とご両親の教育がいいようだ
感情の揺れを見せるのは良くないとちゃんとわかっている。
大人でもコンビニの店員に悪態をつくアホや、自分の事を神様かなにかと勘違いするような頭蓋骨にカニミソでも詰まってるような輩が多い現代で、ちゃんと謝れるのは
なかなかできることじゃない。
「大丈夫です。気にしないでください」
俺がそう言うと、女子高生は俺の一つあけたベンチに座った。
ただ、ものすごい凹んでいるのか大きなため息。
まるで事情を聞いてくださいと言わんばかりの善意を求めるようなため息。
仕方ない……。
「」
「今日誕生日なんです……」
「えっ、あ、そうなんですね」
「ショートケーキ買ってくれませんか?」
「えっ? 見ず知らずの俺に?」
「だめ……ですか……? 私、誕生日に雨に振られて、その上ケーキ食べたいのに親が旅行で居ない可愛そうな女子高生なんですよ?」
俺はこれを知っている。
恐喝だ。
「いいですよね?」
女子高生はニヤリと笑った。
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今日のテーマ:雨 ショートケーキ
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