嫁ポイント
今までできなかった事が、できるようになるというのは嬉しい事だ。
自分の成長が、成果という形に現れるからだ。
早くは逆上がりだったり、少し複雑な四則演算だったり。
出会いは常に増え、出来ないことは徐々に克服し、自分は無敵とさえ覚えた。
ただ人生というのは長いもので、逆にできていた事ができなくなるという事もよくある。
「飲むと精液がめっちゃ増えるよ」
ネットじゃそんな触れ込みの胃腸薬をドラッグストアで手にとった時にそんな事を思った。
俺は眺めるだけ眺めると、自分にそれが用もない代物だという悲しみを胸に店舗を出た。
ドラッグストアの規模と考えても、ここは大型の店舗のようで
百台は止まれるであろう大型の駐車場が目の前に広がっている。
そして軒先の端の端。
遠くに見える喫煙所では、誰かがタバコを吸っている。
そういえば妻の買い物の付き合いできたはいいものの一時間程タバコを吸っていない。
妻はなにやら店員と話しているし、まだ掛かりそうだ。
俺は喫煙所に向かい歩を進めた。
喫煙所に到着すると、怪訝そうな顔で空を見つめる男が一人。
年齢は、俺より少し下。ズボンから下がる鍵の束には、ウチと同じ型のものが混ざり込んでいる。
つまりこいつも家族のためにミニバンに乗っているんだろう。
ただ、男と俺が違うのはやけに快活そうな事だった。
「買い物すか」
紙巻きのタバコを吸う男は話相手を探してるようだった。
まぁこのご時世に喫煙者も珍しいからな。
共通項というものは人と話す上で大切だ。
「あぁまぁ……」
「大変ですよね。なんかうちは特売らしくてティッシュの買い出しにつきあわされました。そちらは?」
むこうも自分と俺の立場が同じだと認識している。
まっ日曜日の昼下がり、薬局でしかも喫煙所と言えば、大体そうだろう。
「まぁ似たようなもんかな。まぁ嫁のポイントをそんな簡単な事で減らすわけには行かないし、買い物ぐらいで下げるわけにはいかなからね」
俺は電子タバコをポケットから取りながらそういった。
「嫁ポイント……上手いこといいますね。たしかに減ったら怖いしなー。旅行ぐらいでしかふえないしなー」
おっしゃるとおりだ。
妻の機嫌というのは家庭に置いて一番に優先される。
仕事から帰ってきて、嫁の機嫌が悪いと、まず自分を顧みて、次に息子を省みる。
子どものいたずらで嫁がキレていると、こっちもキレそうになる。
とにかく自分の家では平穏に暮らしたいのだ。
とにかく嫁がニコニコ笑っていればこっちはどうでもいい。
「この前……ケーキ買っていったんだよ。ただ、なんか友達からもらったらしくてさ、冷蔵庫に入り切らないって言って怒られたよ」
「あ~、かわいそうに……。僕も、そんなんやりましたよ。付き合ってた頃は喜んでくれたんすけどね。サプライズとかやめてほしいって」
「やめるしかないね」
「やめるしかないです」
そういうと、男がタバコの火を消し、足早に喫煙所をあとにした。
「それじゃ!」
颯爽と去っていくどこかのパパの先には、子どもの手を引くどこかのママがいた。
「戻るか……」
俺は吸い殻を捨て、中の筒に落ちた葉っぱを逆さにしてアイコスを箱にしまうと、喫煙所を後にした。
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今日のテーマ: 胃腸薬 電子タバコ
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