夏の風物詩

「会長、ちょっと良いですか?」


夏休みの登校日、生徒会室で作業していると、早見さんが不安げに声を掛けてきた。

作業に集中していたせいか、ドアから見える景色は真っ暗でガラスに自分の顔が反射している。


「あぁ早見さんどうしたの?」

「あの、東雲団地って知ってますか?」

「あぁちょっと前に取り壊された近くの団地だよね。知ってるよ。それがどうかしたの?」

たしか施設の土台が災害かなにかで倒壊する危険があるといって取り壊された団地だったはずだ。

もともと住んでる住人もほぼ居なかったようで、スムーズに取り壊しが済んだはずだ。


「あの……、あそこのって殺人事件あったんでしょうか?」

「あぁその話か。合ったよ。それがどうしたの?」

「そう……ですよね……。あ、いえ、なんでもありません。お気になさらず」

「あぁそう……?」


なにか事情があるんだろうが深くは聞かないでおこう。

変に深入りすると、いつかみたいにプライバシーの問題になりかねない。

「会長、もう帰らないんですか?」

「あぁ、早見さんもう帰る? 鍵ならちゃんと閉めておくから先に帰ったらいいよ。僕はもう少しやっていくから」

「あぁいえ……」


普段なら、そう言うと帰る早見さんはまったく椅子から立とうとしない。


なんなんだ。

俺、なんかしちゃったのか?

不安に駆られた僕は、意を決して事情を聞いてみた。

「なんか様子おかしいけど、どうしたの?」

「あの……会長、あの辺り団地の近くで私たちが産まれるずっと前に殺人事件があってんです」

「へー」

「そ、それで……死体はみんな指が切られてたんです……。なんでかというと、犯人が指を切って、集めた指を小物入れに集めて、土台の下に埋めたんです」


怪談話というのは、抑揚と話す順序が大事だと思うんだけど、早見さんの言い方だとまるで怖くない。

ただ内容は僕も知っている。

たしか作業員が事故で指を切るひどい事故が合ったこと。

飛んだ指が犬に加えられてもっていってなかなか大変だったことも、

指がきれた作業員さんの指はちゃんとくっついたこと。

全部親から聞かされた話だが、尾ひれがついて怪談話になったことも聞いている。


「あぁそれは――」

「私、東雲団地の近く住んでるんです。もう帰れません……」

俺がその事を言おうと、した時に絶望した早見さんがうつろな目をしてそういうもんだから笑ってしまった。

「いや大丈夫だから、帰れるよ。それは……」


俺は荷物をまとめて、椅子から立ち上がる。


しかし、早見さん怪談とか怖がるんだな。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


今日のテーマ: 団地 小物入れ

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